ブラックユーモアホフマン

17歳の瞳に映る世界のブラックユーモアホフマンのレビュー・感想・評価

17歳の瞳に映る世界(2020年製作の映画)
4.2
善良な男たち(なんてものがもしいればの話だが)は、有害な男たちのせいで損をさせられているということにもっとちゃんと怒るべきだ。

やはり昨年公開の、藤元明緒監督の『海辺の彼女たち』を想起した。
若くして妊娠した女性が、頼れる人もほとんどおらず、社会の制度に翻弄されつつ、中絶を決意する、という。寒い冬の話なのも同じ。

『海辺の彼女たち』の彼女は、不法就労の元技能実習生だし、働いているのも田舎。本作の彼女は、父親はロクでもなさそうだがアメリカ国民、ペンシルベニア州民としての福祉制度は受けられる権利があり、ニューヨークまでもバスで行けない距離ではない。比較してどうというわけではないが『海辺の彼女たち』の方がさらにキツい現実を描いていたと思う。

が、映画としてより好きだったのは本作の方だった。17歳の少女が自分で決断して中絶するということがどういうことかというのを具体的に描く。ここは正直、勉強にはなるが良くできた教則ビデオのようでもあると思った。
好きだったのは、泊まる場所も金もない中で翌日まで時間を潰さなければならない、という夜のシーンのしんどさ。ケリー・ライカートの『ウェンディ&ルーシー』なんかも思い出すような。

未成年の少女が大人の助けを借りず都市の夜をやり過ごすということがどれだけハードなことか。いちいち人の、特に男の、不躾な視線に傷つけられる。どこにも逃げ場がない。『ラストナイト・イン・ソーホー』の戯画化された描かれ方よりよっぽど切実に感じられた。

【一番好きなシーン】
・原題にもなっているカウンセラーからの質問のシーン。長回しでの主演シドニー・フラニガンの演技が素晴らしい。
・鶏とたたかうゲーム。何あれ
・深夜の駅で柱ごしに手を繋ぐシーン。