MasaichiYaguchi

罪と女王のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

罪と女王(2019年製作の映画)
3.9
静かだが目眩を起こしそうなシークエンスで幕開けする本作は、これから主人公アンネが我々を“魂の迷宮”に誘うのを象徴しているかのようだ。
児童保護を専門とする弁護士のアンネは優しい医者の夫と可愛い双子の娘たちにも恵まれ、公私共に順風満帆に過ごしている。
この家族が住む瀟洒な邸宅に、夫と前妻の間の息子が問題を起こして一家に引き取られたことから平穏だった日常に波風が立っていく。
アンネにとって義理の息子にあたるグスタフは衝動的な暴力性があり、なかなか一家と馴染めなかったが、彼女は彼を正しい方向へ導くべく距離を縮めて接していく。
だが、この距離の縮め方、接し方によってドラマは思わぬ方向に転がり、義理の親子の領域を二人は踏み外してしまう。
アンネは充分に分別をわきまえている熟年世代であり、ましてや弁護士という法律の専門家でもあるのに、恰も理性の箍が外れたようにに“罪”を重ねていく。
しかし何事にも終わりがあるように、禁断の秘め事が続けられる筈もなく、或る切っ掛けで急転直下にストーリーは展開し始める。
この頃、世間を騒がしている様々なニュース、法律の番人である立場の者が賭け事をしていたり、美しいパートナーや幼子もいるというのに不倫を繰り返したり、傍から見ていて全てを失い兼ねないのに何故愚かなことを仕出かすのかと思ってしまう。
公私共に充実しているように見えても、人には埋め難い心の隙間や渇きがあるのかもしれない。
世間を騒がしている著名人たち以上に人生経験豊富で狡知なアンネは、自分の過ちを糊塗して生活を守る為に大胆で残酷な行動を執るが、その事で更なる事態を引き起こしてしまう。
本作品を観ると、人の持つ不可解さ、救い難い性、深い業に打ちのめされます。