骨川スジ夫

三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実の骨川スジ夫のレビュー・感想・評価

4.1
私は俗にいうゆとり世代である。
三島由紀夫が私の祖父と同世代、
東大全共闘の若者達は父より一回り上の世代。
そう考えると、大昔の話ではないと実感が湧いてくる。

左翼と右翼についての知識はない。
三島由紀夫の著作も読んだことはなく、割腹自殺したことを知っているぐらい。
彼については、右翼思想に傾倒した堅物なイメージを勝手に持っている。
もちろん、あの時代の雰囲気を知らない。完全に理解もしていない。
その程度の認識でしかなかった。

だが、観終わった後に気分が高揚していた。
すごい人達だな、と。
現代人にはない何かを感じる。
ギラギラしているというか。
それこそ、三島の言う「熱情」かもしれない。

導入の映像の時点で、時代の格差を感じる。デモといいつつ、路上での暴動。火炎瓶、投石は当たり前という有様に衝撃を受ける。
そんな学生運動真っ只中の状況で、
左翼の学生達が右翼の大物作家を呼び、討論会をする。若者たちはやる気満々。何が起こるかわからない。
スリリングを通り越して、怖い。

ペンキで書かれたと思しき落書き。
度々カメラの前をタバコの煙が通り過ぎていく。
そんな教室で三島と学生が言葉を重ねる。怒声がぶつかり合うかと思いきや、
むしろ笑いが起きる場面の方が圧倒的に多い。
それは三島のウィットに富んだ発言に対してであったり、学生達の三島に対する挑発に対してであったり。
学生同士で意見をぶつけ合う一幕も。

議論の内容は8割ぐらい理解できないが、
彼らのやり取りを観ているだけで面白い。赤ちゃんを肩車しながら登場する芥さんのような強烈な個性のある学生もいて、全然飽きない。

中でも三島の丁寧に自分の主張を説く姿が印象に残る。学生達に対して声を荒げることはなく、彼らの言葉に笑顔を見せたりもする。
揚げ足を取ろうとしたり、論破しようと躍起になる若者達とは対照的に大人の対応をしている。

この映画を観て、三島由紀夫という人間に興味を持った。それだけの魅力を備えた人物だと思えたのは疑いようがない。
骨川スジ夫

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