あのマルタン・マルジェラ本人が語っているドキュメンタリーということで、公開を楽しみにしていました。
本人が映る映像は手元のみ。
「匿名性」を持つことで、自身は街で注目されることもない落ち着いた日常を送ることができ、人々は〝メゾン・マルタン・マルジェラ〟からデザイナーの顔をイメージするのではなく、洋服そのものを連想する。
マルタンの語り方は、とても自然でした。
「マルジェラの再構築は、メッセージ性ではなく解剖」みたいな言葉はとても印象に残りましたが、それは関係者によるコメントで、そういった文字を踊らせたようなカッコイイ言葉はマルタンの口からは間違っても出てきませんでした。
挿入される音楽とかは、映画を観やすくする為のものなのだと思いますが、マルジェラっぽくないですし、個人的にはちょっと邪魔に感じてしまいました。
マルタンの作る洋服には、どこか退廃的な精神を感じます。
ラストのマルジェラのアーカイヴ展に来ている人々の中に、リック・オウエンスの姿がありました。
リックの作る服は、退廃とエレガンスが融合したスタイルで、自分がもう少し若かりし頃は夢中になりましたが、今ならマルタンの精神の奥底に潜むような退廃性の方がやはり自分は好きだなと思います。(もちろん当時のマルジェラもそれなりに買ってたのですが)
マルタンのような精神性を持つデザイナーでは、今の商業主義に偏ったモード界ではとても続けていくことができなかったでしょう。
引退したタイミングまで完璧です。
そういう生き方をする(できる)デザイナーだからこそ、彼の作った洋服は今見てもその輝きを失わず、その精神は今のファッション界にも大きな影響を与え続けているのだと思います。
マルタン最高!