ヨシダ

MINAMATAーミナマターのヨシダのレビュー・感想・評価

MINAMATAーミナマター(2020年製作の映画)
4.1
日本の大公害である熊本水俣病とアメリカの写真家ユージン・スミスがモチーフの本作。

ジョニーデップが主演を担当し、助演を真田広之や加瀬亮などの日本俳優が演じている。
音楽は坂本龍一が担当。
かれの公害に対する意識を思って聴くと、その純粋性を感じるはず。

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とても長いあいだ漁業を中心に営んできた水俣。
彼らの生活と結びついていた魚は、チッソの工業廃水により猛毒に変わった。
しかし食べ物が無い住民たちは、毒魚を食べざるを得ない。
いつ自らに水俣病が起こるとも知れない状況で。

発病当初のチッソは、水俣病の原因となる成分が判明しない限り、責任を否定し、賠償問題などに取り合わない姿勢だった。
しかし、医師が必死で原因解明に努めるなか、その裏で猫実験により水俣病の因果関係を掴んでいたチッソ。
それを知りつつも爆薬説やアミン説などを推して毒を流し続けたチッソは、完全に極悪であり、明らかな殺人企業だ。

また、書籍「水俣病」で記されていたことがある。
作中でも示唆された浄化装置だが、実際のところ、あれは「綺麗な水」を「濾過した水」だと偽って飲んだという社長の大嘘だったそうだ。

劇的で信じがたい様々な事実。
それらをユージン・スミスは「写真」で遺してくれたのだろう。

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ベテラン俳優陣による演技もリアリティに貢献していた。
真田広之は力強い日本人像を魅せ、國村隼も典型的な悪役では無く、責任と道徳の中で迷う「人間」を演じていた。
ジョニー・デップは乾いた演技で、世界に調和している。容姿なんかはソックリだ。

撮影面でも白黒写真を活かした画面の変化などは素直に楽しめた。
また、「入浴する智子と母」を撮る場面は現像する段階で実物と入れ替わる。
演じている方とは明らかに違う容姿と構図。
これを観た人は現実に起こった出来事を改めて実感する。

当事者との問題は残念だが、実物を用いた事には意義が有り、多くの視聴者に影響を及ぼしたと思う。
アンドリュー監督は「映画」というかたちで水俣病を記録したのだろう。

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私事だけど、これまで僕は絵と写真の明確な境界線がわからないでいた。
でも、この映画を観てハッキリした。
撮影はモノの皮を剥ぐ行為だと思う。
捕らえられた機械的な真実に応じて、写真はその力を増してゆく。
作家の頭を経由して魅力を増す絵とは、全く別種のものだ。

この価値観を得られた点を含めて、個人的に印象深い映画なのだと思う。
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