NagiCheri

モロッコ、彼女たちの朝のNagiCheriのレビュー・感想・評価

モロッコ、彼女たちの朝(2019年製作の映画)
3.8
映像美、陰影美、絵画美、普段美といった美的な世界に「自由への権利」といった社会課題を内包した映画です。
「フェルメール」の絵画展が動画になったのかと見まごうような映像の世界に魅了されつつ物語は進みます。

ベースにある社会課題は、モロッコにおける「未婚の母」というタブー。
前時代的な掟、規範の檻、その中で生きると人はどんな風になるか?映し出されます。

タブーからはみ出してしまったサミア、そしてその社会で生き抜いていくため心に鎧をまとってしまったアブラ。
この2人の女性が出会うことで作り出されるシナジー。
ストーリーが進展するにつれ、なんとも言えない解放感に包まれます。

人は本当は「自由」を求めている。
でもローカルルールというか掟の中で暮らし、自分の心を閉じ込め、いつしか素の自分をなくしてしまっていないか?
そんなもやもやが湧き上がってきます。

掟は、ローカル社会の秩序を維持するためにあるのであって、「殺してはいけない」とか「盗んではいけない」といった普遍的絶対的な価値観ではない、そういったことに2人ともなんとなく気づいている。
掟の中で暮らすじんわりとした息苦しさ。

サミアが持っている美容師のスキルが発揮できない現実。
人の目が気になるから未婚妊婦のサミアにあまり目立たないでほしい、というアブラの言葉。

ちりばめられたディテールから「社会は余計な秩序で人を縛っていないか?」考えさせられます。
「未来を自分の意思で構築していける社会にしよう!」そう呼びかけてくれているようにも感じました。

アブラは最初、その優しさにまで鎧をまとい、優しそうに優しくできず、彼女の優しさはぶっきらぼうな冷たさで包まれていた。
つまり情緒や感情がうまくだせていなかった。

けれども、型破りのサミアと出会い、心のフタを開け、「ナチュラルにしていい」と自分に許可を出せるようになり、ふわっとしたオーラさえまとっていった姿には、私も表情筋がゆるみました!

文字通り街を彷徨っていたサミアは、アブラの不器用な優しさがセイフティネットとなって破滅をまぬがれ、覚悟を持って自分の人生を歩み始める。

サミアが勇気を持って前に進んだことが報われ、彼女の未来が広がることを、そして世界が人を応援できる社会になることを、願います!