kito

83歳のやさしいスパイのkitoのレビュー・感想・評価

83歳のやさしいスパイ(2020年製作の映画)
3.3
少しモヤっとするのだけど、なかなか考えさせられる良作だった。

タイトルやらあらすじやらでてっきりフィクションだと思い見始めたが、ドキュメンタリーだった。舞台はチリ、母親が老人ホーム内で虐待を受けているのではないかと娘が私立探偵に調査を依頼。内偵要員を新聞広告で公募、採用された83歳のおじいちゃんをホームで密着取材するというもの。

面接風景から始まるのだが、この探偵がいきなり胡散臭く、応募者もどこか俳優っぽい感じがする。探偵というのは如才なくては務まらないだろうから決して変ではないのかもしれないけれど。面接シーンが何ともドラマっぽいのだけど、ワンカット、カメラマンとディレクターらしき女性が映り、ああドキュメンタリーだったんだと気がついた。

主人公は矍鑠(かくしゃく)としたおじいちゃんで、初めて触るiPhoneの使い方を教わり、カメラ内蔵のスパイペンを渡され、毎日ボイスメッセージで報告するように言われる。しっかりしているようでも探偵との通話で使う暗号がなかなか覚えられないなどというクスッとするシーンもあった。

ホーム側の許可、協力で密着取材班がおじいちゃんスパイを追いかける。女性がほとんどのホーム内でおじいちゃんは雑談風に聞き取りを続け、いつの間にか皆の悩みを知り、ときに慰め合い、いつしかすっかり人気者になっていくという展開。

入所者はそれぞれに個性があって一見すると微笑ましかったり愛らしかったりするのだけれど、健康不安や家族の面会がなく孤独を抱えていたりと悩みも深い。ドラえもんにせがんでのび太がしずかちゃんとの結婚式を見にいくのはまったく子供らしいのだけれど、中年を過ぎると、自らの将来、老後の生活というものが、見たいような、見るのが怖いような複雑な気持ちに襲われる。

必ずやってくる老いーー本作を観て、いまさらながらに思いを馳せずにいられなくなった。

ところで、本作は老後の一面について上手くまとまっているのだけれど、それゆえにどうも終始フィクションっぽさが拭えなかった。ありていに言えば "ヤラセ" があったのではないかということ。

まあ、アカデミー賞にもノミネートされ、全員、本当に素人だそうだから、ゲスの勘ぐりで自らの捻くれた感情に滅入るのだけど、、、
kito

kito