somaddesign

僕が跳びはねる理由のsomaddesignのレビュー・感想・評価

僕が跳びはねる理由(2020年製作の映画)
5.0
身近に知らない宇宙を見つけた感。
可哀想がらない視点が心地よかった。

:::::::::::

東田直樹が13歳の時に執筆した『自閉症の僕が跳びはねる理由』を原作に、自身も自閉症の息子を持つ作家デイヴィッド・ミッチェルとケイコ・ヨシダ夫妻が英訳。理解されにくかった自閉症者の内面を平易な言葉で表現したエッセイで、日本のみならず世界30各国で翻訳されベストセラーとなった。イギリスのドキュメンタリー作家ジェリー・ロスウェル監督が、世界各地の5人の自閉症の少年少女とその家族たちへの取材を重ね、自閉症の人々が見ている世界を美しい映像とともに描き出したドキュメンタリー。

:::::::::::

原作未読。
完全にノーマークで予告編すら見ずに、完全に予備知識ゼロで見に行った。あとで調べたら偶然にも「世界自閉症啓発デー」の次の日だった。

思い返せば、初めて自閉症を知ったのも映画だったな。(88年「レインマン」)身近に発達障害の人がいないのもあって自分の理解が不十分だった…かと思ってたけど、知らず知らずに自分から遠ざかって見ないようにしてた気もする。


勝手にイメージしてたより、ずっとコミュニケーションが可能だし、彼ら・彼女たちが感じてることが言語化されてて、共感しやすくて助かった。
文字盤を通して伝わる言葉は、時に詩的で論理的で直感的。文面だけを見れば自閉症でない人と区別がつかない。その内面が『普通の人たち』と比べて単に見えづらいだけだと知れる。

思いがけないことに共感できる部分が多かった。細部を見ちゃって全体像を掴めないとか、気に入った触感のモノを延々触れてしまう。適切な言葉を選んでいるうちに、会話のタイミングを逃したり。そういう時周りからはフリーズして見えるらしく、度々不思議がられる。

劇中、原作の一節がモノローグとして取り出されるけど、13歳の少年が書いたと思うと普通にすごい。自分が13歳の時、こんなに自分の内面を整理して言葉に出来なかったし、そもそも内面そのものが雑然としてた気がする。モヤがかった頭の中を、平易な表現で誰もが共感しえる言葉に置き換えられる才能が普通にスゴイ。

インド・イギリス・アメリカ・シエラオネ・日本…と5カ国にわたって当事者たちの言葉を追うので、国や人種に関係ない世界的な現象なのがわかる。国によって周囲の人たちの理解も支援も大きく差があるのも分かるし、たくさんの事例を示してくれることで個人差の部分と共通する苦悩の部分がまだらに浮かび上がって来て良かった。状況や事情を鑑みて十把一絡げに乱暴な着地をしないバランス感覚がいい。何より感動ポルノに堕することなく、かといって上から目線で説教臭く啓蒙するわけでもない。『普通の人』とは違う特異な感じ方の人たちの感覚を通して、互いの理解を深めようって視点がよかった。


とてもフワフワとした浮遊感のある映像体験で、夢の中を漂うよう。音や光の感触が大事な作品で、自然風景の美しさやイライラとさせるノイズが自閉症の世界を追体験させてくれる。劇場で見られて良かった!


余談)
鑑賞後、原作も読了。
改めて13歳の少年が書いたとはにわかに信じられないクオリティ。平易で共感の湧く文章に感服しちゃう。自閉症関係なく、難しい年頃の少年が自分の中で起きてることを、よくもここまで整然と言葉に変換できたものだ。Amazonだと「本当に本人が書いたのか?」と懐疑的・批判的なレビューも散見された。だがしかし映画を見た後だと、少なくとも彼らの感じ方・感じてることを言語化してる稀有な一冊に思えた。
思うように動かせない体と、点と散らばる感覚の狭間で、どうにか言葉に置き換えてる感がすごい
「僕たちは、見かけでは分からないかも知れませんが、自分の体を自分のものだと自覚したことがありません。いつもこの体を持て余し、気持ちの折り合いの中で、もがき苦しんでいるのです」
「思い通りにならない体、伝えられない気持ちを抱え、いつも僕らはぎりぎりのところで生きているのです」
おおお!


23本目
somaddesign

somaddesign