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ドリーム・ホースの都部のレビュー・感想・評価

ドリーム・ホース(2020年製作の映画)
4.2
人生の過渡期をとうに終えた大人達が、手ずから育てた競走馬に失った情熱を見出すことで第二の人生の豊かさ そして胸の高鳴りを再獲得する物語としてたしかな見応えを感じる作品だった。

数年前までは競馬のことなど露も知らなかった身ではあるが、某アプリゲームを通して生じる高揚感やそこでしか得られない感動を知っていたということもあり、作中の馬主組合の面々同様に競走馬:ドリームアライアンスが迎えるレースの数々に、思わず手に汗握り胸の内が熱くなる感覚を覚えた。最高。この作中人物と観客の心境が一体になるようにと組まれた人間ドラマもよく、競馬/競走馬の世界を知らない人間にも共通する普遍的な人生の乾きをあの手この手で見せているのが巧みだ。

主人公に位置するジャンの、子育てを終え、両親の世話に追われ、情熱を失った夫の妻としての立場が冒頭で示されるが、決してそれは誰もが他人事と切り離せない実りを失った生活であることは自明の理だ。

『朝起きた時にワクワクするような──人生を変えてくれると、そう思えるようなものが人生に欲しい』

という渇望から始まる行動の数々はテンポよく流されていき、同じ境遇にある街の大人達が目を輝かせて、情熱を取り戻す姿を目にすれば顔が綻ぶのは当然というものだろう。もちろん馬主組合として、利権や決定権を巡る問題にも直面するが、彼等の心の底にあるのは純粋な熱意で、取り戻した胸の高鳴りを謳歌するのは人生賛歌そのものである。

ドリームアライアンスのレースシーンの迫力も充分で、度々訪れるレースが物語に大規模な緩急を齎し、人間ドラマと馬とのドラマがしっかりと一本化されたままに駆け抜けていくのも良かった。ジャンを演じるトニー・コレットの演技力がその二つを結び付けており、拍手喝采を送るに相応しい作品に仕上げている。
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