ノラネコの呑んで観るシネマ

キネマの神様のノラネコの呑んで観るシネマのレビュー・感想・評価

キネマの神様(2021年製作の映画)
4.0
沢田研二演じるギャンブル狂で借金まみれのダメじいさんが、映画館で半世紀前の青春時代、松竹の撮影所で監督を目指していた時代を回想する。
彼は才能はあったものの、もの凄くアホらしい理由で自信を失って挫折し、以降うだつの上がらないダメダメな人生を送っている。
そんなじいさんが、希望に溢れていた若い頃を追体験し、孫に背中を押されて忘れていた夢に再挑戦する。
これも創作の連環が描かれるが、菅田将暉→沢田研二と自分の中で受け継がれるのが面白い。
ちょっと気になったのが年代の矛盾で、主人公は40年ごろの生まれのはず。
過去パートは60年代後半の既に映画が斜陽産業化している時代のはずだが、撮ってる映画は「東京物語」を引き合いに出すくらいだから、どう観ても50年代の黄金時代。
これはつまり主人公より10年プラス、31年生まれの山田洋次の、成功しなかったもう一人の自分ということか。
いかにも山田洋次らしいベタな部分もあるものの、映画の持つ過去性の追求という意味では、よく考えられた作品だと思う。
沢田研二のキャラクターが、どことなく志村けんに重なるのも涙。
菅田将暉とのイメージのすり合わせも上手くいっていて、ちゃんと同じキャラクターに見える。
しかしコロナ禍の映画館など、現実を反映した物語ゆえに、主人公の書く脚本が80年代のある名作洋画にソックリなのが引っ掛かる。
小説ならオマージュで済むけど、同じ映画というフィールドでは、もうちょっと設定を変えた方が良かったのでは。