さうすぽー

宇宙でいちばんあかるい屋根のさうすぽーのレビュー・感想・評価

4.5
自己満足点 89点

凄く愛おしい映画です。
デイアンドナイトや新聞記者といった重い社会派を作った藤井道人監督が珍しいくらい心優しい映画を作ってくれました!


野中ともそ原作の映画化で、悩める女子中学生がとある屋上で星ばあという不思議な老婆と出会い、交流を深めることで成長していく青春映画。

青春映画とはいっても、ヒューマンドラマでもありラブストーリーでもありファンタジーでもある作品です。清原果耶演じる女子中学生つばめの周りに起こる出来事を経て一歩大人に近づく作品ですね。


そんなつばめと星ばあとの交流が非常にいとおしいです!
最初は星ばあの奇妙さに鬱陶しさを感じながら、交流していくことによって次第に自分の悩みを自然に話せる仲になっていき、お互いに大切な存在になっていく様が非常に好きです。
お互いに気遣いなく何でも話せる仲って凄く素敵ですよね!
今って人に気を使う事が凄く多いけど、悩みを話したり少し悪態付いたりからかったり、気遣いなく話せる仲は本当に憧れるし、「自分も星ばあのような存在がいたらなぁ」と観てる時に考えたりしてました。

そんなつばめの家族間や好きな人、学校内に関する葛藤や屈折を時に重く描くので時に心苦しい場面もありますが、観た後に心暖まり、希望に溢れてきます。

そのつばめを演じた清原果耶と星ばあ役の桃井かおりが本当に素晴らしいです!
清原果耶はデイアンドナイトでのヒロイン役が素晴らしかったのですが、今回は単に悩める女の子だけでなく、好きな人に目をキラキラして接したり、星ばあやお父さんには仲良い感じを見せつつ少し口悪かったり、思春期にみせる等身大の中学生を見事に熱演していました。
ノーメイクの部分が多いにも関わらず、彼女は劇中全ての場面で輝いていたし、彼女が泣く場面は思わずこちらも貰い泣きしてしまいました。

桃井かおりも本当に素晴らしいです!
桃井かおりはまだ70歳いかない歳のはずですが、それでも80歳近い星ばあを違和感無く熱演していて、「この人マジでこれくらいの歳なんじゃないか」と思ったくらいでした。
今まで邦画もハリウッドも含めて色々と桃井かおりの演技を観てきましたが、恐らくここ最近の映画で一番素晴らしかったと思います。

その他にもつばめの父を演じた吉岡秀隆やつばめの元カレ役の醍醐虎汰朗も映画に良い味を出していて良かったです。

また、藤井道人作品としては珍しくグリーンバックでのCGが使われてます。お世辞にもクオリティが高いとは言えないものの、ファンタジー的要素のある本作に結構合っていて、良い意味で現実離れしていました。
いつも星ばあと交流してる屋上の夜空がCGで使われていますが、日が完全に沈む直前のような少し暖かみのある「青」になっていて、それが映画によく反映されていました。

あとクラゲのメタファも良かったです。
星ばあがよくクラゲのように舞うような躍りをやるのですが、どこか自由で優雅に漂うクラゲを星ばあに例えられていたと思います。

音楽も素晴らしいです!
ミニマルテクノを駆使した少し奇妙で綺麗な本作の世界観に合っていたし、劇中で伊藤健太郎が弾いてるバンジョーの音色も聴いてて心地良いです。
また、清原果耶が映画の主題歌を歌っていましたが、声が綺麗ですね!曲も本作のように暖かみのあるキャラになっていました。


そんな素晴らしい作品ですが、一つだけケチ付けるとしたら、星ばあのファンタジー要素をもう少し入れるべきだったと思います。
星ばあの「空を飛ぶ」能力は劇中で殆ど描写されないし、能力を駆使する場面もそんなに無いので少し物足りなかったです。


思春期の複雑な心情と共に家庭内や学校での悩みがリアルに描写されるため、人によっては心苦しくなるかもしれません。
しかし、心苦しい場面も描きながら大切な人の交流を優しく、どこかノスタルジックに描いていくので観た後に非常に心暖まります。

「新聞記者」が嫌いだった人達でも、この映画ならきっと好きになれる気がします。
本作に出てくるファンタジー要素は賛否あるかも知れませんが、それでも全世代に全力でオススメしたい映画です!

※2020年映画ベスト10「第7位」