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グッバイ、レーニン!のyastakのレビュー・感想・評価

グッバイ、レーニン!(2003年製作の映画)
3.7
アマプラ落ち手前で鑑賞したうちの1本。

公開当時からけっこう気になってた作品ですが、コミカルなのかシリアスなのか測りきれずに、なんとなくウダウダしてたら17年も経ってしまいました。

東西ドイツ統合とそれによる変化を、東ドイツで暮らすある家庭にフォーカスをあてて描いたファミリードラマ。

主人公であるアレックスを演じるのは、いまやハリウッド大作でも目にする俳優となったダニエル・ブリュール。公開が来年になった「キングスマン ファースト・エージェント」にも出てますね。
この人、なんとなく印象がエミール・ハーシュとかぶるんですが、キャリアが同じくらいだからかな。年はダニエル・ブリュールの方が7つくらい上です。

そもそも東ドイツの家庭を舞台に描いた作品ってなかなかない気がしますが、設定もユニーク。
家族を捨てて西側に亡命したお父さんを忘れるために、国家が掲げる社会主義に人生を捧げるお母さんが、反体制デモに参加している息子(アレックス)をみて心臓発作を起こします。
そのまま昏睡状態に陥ったお母さんは、東西ドイツ統合や壁の崩壊をはじめとした激動を見ぬまま8ヶ月後に目覚めるのですが、お母さんの心臓に再びショックを与えぬよう、アレックスをはじめ家族やご近所さんがさまざまな工夫を凝らして、東西統合を懸命に隠す話。

こうやって書くとコメディみたいに見えますが、事態が深刻な分もっと複雑。
またお母さんの話を軸としながらも、アレックスの家族愛、恋人や職場での友人との出会い、ご近所との交流、父の亡命の裏にあった真実など、多くの出来事が絡まってきて、作品にもキャラクターにも厚みを与えています。

世の中と家庭の中は、リンクしているようでリンクしていない。
ドイツが分断されたことにより起こった悲劇、という側面もありながらも、政治や歴史を主として見せずに、あくまで家族劇に集約させて登場人物の心情を丁寧に描いてるという意味でも、共感を誘う非常に良く出来た作品だと思います。

キャストはみんな良いんですが、中でもダニエル・ブリュールの繊細な演技が良かった。そういう演出ではあると思うけど、ちょっとした手の動きとか、母親を労る息子の愛情がスクリーンを通じて伝わってきました。

あとは、アレックスの彼女役、ララのナチュラルなキュートさ。
ケンカしつつも保たれる適度な距離感、いいなあ。
公園でアレックスのビンボー揺すりを止めるシーンが好き。これって演出なの?というくらい自然。二人で微笑んじゃって、観てるこっちも微笑んじゃったよ。
お母さん役、クリスティアーネを演じたカトリーン・ザースもメチャきれいです。

病院でお母さんに見せる最後のフェイクニュース。
アレックスの母国への思いが込められたニュースの内容もさることながら、母と息子の目線の交わりだけで、それぞれの気持ちを伝えるシーンがめっちゃ印象に残りました。

またもや出会ってしまった、早く観るべきだった作品。
登場人物それぞれの、たくさんの愛情を感じられる素敵な作品でした。
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