モカ

ベルリン・アレクサンダープラッツのモカのレビュー・感想・評価

3.5
ドイツ文学最高峰のひとつ、1929年発行の『ベルリン アレクサンダー広場』をベースに、舞台を現代に置き換えた作品。
恥ずかしながら大学で専攻していたものの未読だったので、改めて映画前に読もうと思ったのだけど、もう絶版に近い扱いらしい、残念。

あの時代のドイツ文学なんて重苦しくて冗長でどうなんだろう、と心配していたもののうまいこと現代化されていて、3時間の長丁場でも飽きることなく見ることができた。

不法移民としてなんとか入国したものの(本人たちは『難民』と称しているが)、ビザがないためまともな仕事に就けず、いわゆるタコ部屋の肉体労働者として生きるフランシス。
「良い人間になりたい」という思いはあるものの、困難に直面するたびに楽な方へ、自分を守る方へと流れていってしまう。

その元凶となる男ラインホルトは完全なるソシオパスで見るからに危ない男だが、どうにも憎めない一面を持っていて、フランツの名をもらったフランシスはラインホルトの意のままに扱われてしまう。

結果、物事がどんどん負のスパイラルに巻きこまれていくのだが、
強い意志や才能を持つわけでもない『普通の若者』の不運な転落を、一体誰が責められるのだろう。

ところどころに入るドイツ語ナレーションは原作を読み上げているのか、抽象的かつ美しい響きを持っている。
そして幻想的な雄牛のイメージやネオンの赤い輝きなど、アーティスティックなシーンに浸れて飽きさせない。
ただアレクサンダー広場はそれほど出てこなかった。

個人的に面白かったのは冒頭の事故のシーンがフランス語、フランシスが話すのはほとんどが英語(ドイツ語を練習する場面もあり)、その他の人物はドイツ語を話しているところだった。
言葉の壁に関しては大きく出てこないが、難民として知らない母語を持つ国で暮らすのはどれほどの苦労を伴うのかは容易に想像がつく。

ちょうど同時期に日本の入管法の改悪案なども取り沙汰され、『普通の若者』として我が国で生きようとする難民たちのことも思い出させてくれる。
モカ

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