あんがすざろっく

のぼる小寺さんのあんがすざろっくのレビュー・感想・評価

のぼる小寺さん(2020年製作の映画)
3.8
最近メンタル面がやられてるせいで、重いドラマを避ける傾向にあります。
それなら、何も考えないで見られるようなアニメとかコメディとか、青春映画を見たい。
字幕なしで、肩の力を抜いて見れる邦画がいい。

という訳で、以前から見たかった本作をレンタル。

高校のクライミング部に所属する小寺さんと、彼女の周りに引き寄せられた高校生達の群像劇。

クライミングとボルダリングって、違ったんですね…。


主役はタイトルにあるように「小寺さん」であるかのように思われるかも知れません。
確かに小寺さんが登場する場面は多いものの、実際作品が焦点を当てるのは、その小寺さんに影響され、成長していく周りの人達の姿なのです。
本人にその気はないけど、知らない間にみんなは小寺さんにグイッと引っ張り上げられていきます。

端から見ると、小寺さんはどこか感覚のズレている「不思議ちゃん」。
彼女と距離を置いている人達からすると、他に言いようがないのだけど、密かな恋心であったり、様々な理由で彼女に徐々に引き寄せられる人達には、小寺さんが無心でボルダリングに挑戦する姿は、決して目が離せないものなのです。

小寺さんという存在は、彼らが向かい合う「自分」という大きな壁の象徴。
「桐島、部活やめるってよ」にも通じる構造であるように感じました。


小寺さん役には、工藤遥さん。
スポーツが得意なんですかね。演技とは言え、あんな岩登ったり、校舎をよじ登ったり、怖くなかったのかな…。
文字通り、体を張った熱演です。
鼻血のシーンであったり、進路希望に「クライマー」と書いてしまったり、身近にいたら、申し訳ないんだけど、「大丈夫かな」とか、「痛いなぁ」とか思ってしまうかも知れないんだけど、でもこれが小寺さんなんだよなぁ。
周りの声には全く動じない。
決して人の忠告とか言うことを聞かない訳じゃなくて、彼女は一つのことに集中すると、それ以外のことは全く意識がいかないだけ。
スカートでボルダリングしても、全然気にしない。
誰かにじっと見つめられていても、近くで大きい音がしても、一向に気付かない。

人付き合いが下手なんじゃなくて、周りの誰も彼女と距離を縮めようとしないだけ。
現に倉田さんとはすぐに仲良くなれた訳だし。
田崎さんとの距離が一気に縮んだのも、小寺さんからコミュニケーションを取ったから。
その取り方は、やっぱりちょっとズレてるんだけど。

その小寺さんを密かに想っている卓球部の近藤君には、伊藤健太郎さん。
彼の距離の取り方も、なんかぎこちない。気付いて欲しいんだか、欲しくないんだか。
しかし、小寺さんへの想いは、次第に自らの内面へと向かっていくんです。

小寺さんの中学時代からの知り合いで、同じボルダリング部の四条君には、鈴木仁さん。
僕は、彼が一番魅力的に成長していくキャラクターに見えました。
部活を始めたきっかけは、ひょっとしたら不純なものだったかもだけど、彼はどんどんボルダリングにのめり込んでいきます。

写真を撮るのが好きな田崎さんに、小野花梨さん。小寺さんを隠し撮りしているうちに、少しずつ彼女と打ち解けていきます。

登校拒否気味で、ネイルアートが大好きな倉田さんには、吉川愛さん。
彼女と小寺さんが最初に会話を交わすシーンがいい。
不良少女のようでいて、小寺さんにシンパシーを感じていく過程が自然です。

文化祭で猿の着ぐるみを着てビラ配りをする小寺さん。
その姿を見て嘲笑する女子達に怒りを露わにする倉田さんですが、その後の小寺さんの反応に、倉田さんも怒る気力を無くしてしまいます。きっと倉田さんは、そんな小寺さんが好きになったんでしょう。
そこからの校舎よじ登りが、笑えるんだけど、無性にカッコイイんです。


途中の近藤君と四条君の変な脱線が気になってしまったり、ところどころで寒々しい展開や描写があるのが、とても残念なんだけど(脚本に少し難あり)、嫌いにはなれない作品。
とにかく、小寺さんを演じる工藤遥さんが実に魅力的です。
締め方も、ちょっと甘酸っぱい感じがいい。
たくさん飲んじゃったけど、って、そんなことじゃないんだけど🤣
でも、だからこその小寺さん。
多分、小寺さんにはそんな気はないんだろうけど、少し期待したくなってしまいます。
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