皿鉢小鉢てんりしんり

日本殉情伝 おかしなふたり ものくるおしきひとびとの群の皿鉢小鉢てんりしんりのレビュー・感想・評価

3.9
いつものごとく、効果的なのかどうかよく分からないコマ落とし、マッドペイント、張りぼてのセット、くどいセリフ、監督本人のナレーション、無茶な衣装、(いかにも小学生の習い事な)ピアノ曲……等々の過剰な人工世界で、しかしやっぱりこの異常な“甘ったるさ”だけはどうしたって大林映画でなくては味わえない。
マンガみたいなキャラ造形や、子ども向け番組みたいな導入にいつも騙されそうになるが、大林映画の“複雑さ”にはいつもただ翻弄させられる。
絶対に一筋縄ではいかないし、話がどう転がるか全く分からない。
ごっつい木偶の坊の“三浦友和”と爽やかで線の細い好青年“竹内力”とキャスティングから捻くれてるし、画面構成、ロケーションの複雑さも徹底している。ていうかあんだけ入り組んだ高低差だらけの尾道なら否が応でも複雑になるんだけど、画面の奥に列車が通ったり船が通ったりは何度でも映す。みんな線路脇に住みすぎ。
印刷所を荒らして、赤インクを印刷機に垂らして日の丸が量産されるとか、バナナをわざわざナイフでちょっとずつ切って食べるババアとか、詰めた小指をピアノの置物の中に入れてるのとか、もう全然意味のわからないディティールに枚挙のいとまがない。
クライマックスで『静かなる男』オマージュと思われる延々と終わらない殴りあいがあるが、ジョンフォードの単純な“映画そのもの”、“運動そのもの”みたいなのとは180度真逆の、思いついたやつ全部乗せみたいなごった煮が展開する。“シネフィル”の方々はこういうとこ嬉々として嘲笑されるんだろうが、俺にとってはデ・パルマ>>>>>>>>>>>ヒッチコック、の不届者なので当然大歓迎。
語られる言葉がまたいかにもなんだけど、「昔を忘れるために歳をとったのに」、「昔の重みが歳を取らせるじゃないかい」とか「風穴をあけるつもりがとんだ節穴だったみたいですね…」とか「夕子は哀しそうだ。それは夕子を想うぼくの気持ちが哀しいからだ。」とか全編その調子だから、どうしたって見てたらおかしな気持ちになってくる。