ミズキ

二重のまち/交代地のうたを編むのミズキのレビュー・感想・評価

4.0
被災者の話を聞いた人がそれをこの作品では、語り手として映画を見る側に伝えるという構図、しかもこの二重のまちの話自体はこの作品の原作を書いた瀬尾さん自身のものだろう。震災を伝える、が何重にもなっていて、すごくおもしろい。
見ていて、話し手が言葉を選んで伝えているのがすごくよくわかる、この間に自分たちも一緒に考える時間がある、そして伝える難しさ、真剣さが感じ取れる。

終始、工事中の風景の中を歩いていく描写が見られた。工事中の音だったり、歩いている彼らを見て、なんだか自然とストーリーの描写に思いを馳せられた。
シンプルだけど、すごく自然と考えさせられたり、物語に没入できる、そんな感じだった。

ある女性の方の話、被災後パッタリとお化粧しなくなって、フィクションも読まなくなったという話、彼女は震災以来、別人になってしまった、自分の中で何かが変わってしまったと言ってて、その話がすごく印象的だった

話をきく側の葛藤の話もすごく興味深かった。
「結局お父さんに亡くなった息子さんの話をきけなかった。自分が分かるためにきくのがイヤで、自分のためだけに聞いていることになってしまう気がする、だから。」
このきく人側の難しさは、自分の実体験としてすごく分かるなと思った

二重のまちのストーリーはどれもすごくおもしろかったけれど、1番最後の孫がおじいちゃんおばあちゃんの大切な思い出、2人が忘れたくないことを私が覚えておくからね、という話は特に好きだったな。

最後の「伝える」ということについて語り合うシーン、その人のことをそのまま伝えたいけれど、伝えるときにはどうしても自分のフィルターを通して違うように伝わってしまっていそう、それが怖いという話、すごく考えさせられる。

震災を伝える、ということに関して、当時の話を聞いた人がまたそれを誰かに伝えるというのは、同じ被災していない人からきく話ということで、きく側としては絶妙にバランス感がある気がする。
相手にただ同情しすぎたり、気を遣いすぎたり、ある種のうさんくささみたいなものを感じたりしないから。
そういう意味で、この、「きいた誰かがそれを誰かに伝える」という営みはすごく、いいものだなと感じた
ミズキ

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