辛気臭いビブラフォン多めのBGMが流れ、画面は基本薄暗い。今では陰気な結婚生活を送り、青春時代のストーカー的な恋にしょっちゅうフラッシュバックするおっさんにノれなかった。テレビに映る叙情詩マナスの語り手に娘のアナーラがびびってぐずり出し、父テミールが言う「これは良いお爺さんだよ」ってセリフだったり、ラストの実はお相手いました！みたいな事実が発覚する際のギャグみたいな音楽と、コメディのほうがセンスありそう。

アナーラが林で木を見上げ、ズームで葉っぱを掻い潜り、リンゴの下部のドアップショットが現れるってのはなかなか迫力あった。あとテミールの現代が老けメイクなのか回想が若返りメイクなのかわからなかった。違う俳優かってレベル。多分老けメイクなんだろうけど。基本ロシア語だがたまに出てくるキルギス語カッコいい。

キルギス映画。水兵姿の若き主人公テミールによる街で見かけた女性への思慕と、家庭抱える中年画家テミールの鬱屈。街角尾行や馬上の目配せ、レナ河での船上結婚式など水平に流れ続ける映像が、叙事詩マナス語りやシベリアにいる妻映すTV映像時のみ静止する象徴性。トロムーシュ・オケーエフ監督1975年作。

アテネ・フランセ文化センター上映特集《キルギス（クルグズ）映画の過去と現在》へ無理押しても行かねばと思ったのは、2年前に観た草原遊牧映画『馬を放つ』に、今はモスクとして使われる旧映画館建物の元映写室扉に、『赤いりんご』の古いポスターが貼られていたから。

『馬を放つ』:　https://twitter.com/pherim/status/974567944469454849

気になっておくものだねと。観られて良かった。

かつて片思いしていた女性のことをこれでもかというくらい引きずり回した結果、妻には愛想を尽かされ娘には苦い青春を思い出させる真っ赤なりんご(彼は幸運のアイテムだと信じているようだが)を見つけ出され主人公家族に亀裂が生まれることを予感させる。短いけど薄っぺらさはない良い映画だった。