けんぼー

空白のけんぼーのレビュー・感想・評価

空白(2021年製作の映画)
4.3
2021年鑑賞122本目。
本年度最高の素晴らしいラストシーン。父親が子に向き合うまでの物語。

本当に心を抉られる作品でした。

まず、作品冒頭の事故シーンがトラウマレベル。
劇的な演出一切なしで、淡々と事故の様子を映し出しており、過度なグロさはなく、でも確かに悲惨で目をそむけたくなる様子が伝わってくる。
良い意味でめっちゃ嫌な演出でした。

このシーンは主人公である「青柳」(松坂桃李)だけでなく、観客の頭にもずっとこびりつくであろう強烈なシーンであり、このシーンが実はこの映画の中で一番重要だった気がします。

そして、そこからは事故死した中学生「花音」(伊藤蒼)の父親「添田」(古田新太)が青柳のもとを何度も訪れ、事故の真相、「娘が本当に万引きをしたのかどうか」を問いただしていきます。
「花音は万引きをするような子じゃない」と信じて疑わず、行動がエスカレートしていく添田。
しかし添田自身にも原因と呼べるような部分があるんですよね。添田は離婚しており、花音を一人で養ってはいたんですが、花音の話をちゃんと聞かず、向き合ってこなかったんです。元妻からも「花音の何がわかるの?」とまで言われるほど。

次第にメディアが事故の件、そして青柳の対応の是非について報道し始め、事故の当事者だけでなく、周りの人間も巻き込んで、どんどん状況が悪化していきます。

登場人物の誰もが「被害者」であり「加害者」であるというところが本作の深いところで、絶対的な悪者はいないんだけど、全員が「悪い」。
だからこそ見ている側も辛いんですよね。そしてずっと、事故の光景が頭をよぎる。

物語終盤、添田はだんだんと娘である花音を理解しよう、向き合おうとしていくのですが、ラストシーンが本当に見事で、ゾクッとしました。

これまで花音と向き合って来れなかった添田でしたが、もしかしたら、あの日、あの時間だけは確かに添田と花音は「向き合って」いたんじゃないか?向き合うことができたんじゃないか?というわずかな希望が伝わる見事なラストシーン。
吉田監督はこのラストシーンから思いついたらしいですが、間違いなく本年度最高の、日本映画界の歴史にも残るんじゃないかと思えるラストシーンだと思います。

トラウマレベルの事故シーン、そして美しいラストシーン。どちらもおそらく一生忘れないでしょう。
今年は邦画も洋画も名作が多いですが、その中でも上位に来る作品でした。

2021/9/23観賞