ポスタービジュアルにあるとおり、2人の主人公、漁師の添田(古田新太)と、スーパーマーケットの店長の青柳(松坂桃季)の心の空白を描いた本作。
何と言っても、脚本の構成が素晴らしかった。ネタバレになるといけないから多くは書けないが。
事故で娘の花音を失った添田は、彼女のことを知ろうとキャンバスに向かうことで初めて心を通わせることができ、空白を埋める。
店長の青柳にしても失うものは大きかったが、一人のお客(奥野瑛太もインパクトがあった)の一言で、店のある商品を通じて、父親との空白を埋めることができたと言える。この二重構造には思わず唸ってしまった。
主人公の2人はもちろんのこと、脇役の人たちにも印象的なシーンが多かった。
･翔子(田畑智子)が事故現場にある選挙の立候補者の看板にあたり散らす"分かるけど分からない"シーン。
･パートの草加部(寺島しのぶ)のお節介な善意の押しつけの数々。特にスーパーの事務所で追い詰められた青柳へのどさくさまぎれの"ある行為"は最高😆
･龍馬(藤原季節)の場の空気を変えるいくつかのシーン。
･スーパーの店員の望月さんの送別会のひとこま。あるボランティアスタッフが草加部さんの圧力に負け、ビラ配りに参加するところ。
挙げたらキリがないが、人物描写が丁寧かつ的確で登場人物のキャラクターづけがうまい。
ただ気になったのはカメラワーク。臨場感を出す為に手持ちにしたのかもしれないが、微妙に手ぶれしているのが気になってしまった。できれば固定でじっくりと見せて欲しかった。
それとこんなことを書くとひんしゅくを買いそうだが。演出なのか俳優の演技なのか、どうも添田の怒り方がカタチだけの一辺倒に見えたのは気のせいだろうか･･
とは言え、終盤の墓参りの後の車中で添田がつぶやいた一言はこの物語を象徴するようで素晴らしかった。
不慮に不幸な出来事にあってしまった人たちの気持ちは、深いところで他人が理解することは難しく、端からみると奇妙な行動をしているように見えるかもしれない。しかしそれぞれが正しいと思い行動し、心に決着を付けようと必死に生きている。主人公たちに僅かながらも希望の光が見れて良かった。
