先の見えない人生にもがく主人公を演じたジャック・ニコルソンらしい凶暴性と脆さを秘めた危うい演技がなんとも魅力的な、いかにも「アメリカン・ニュー・シネマ」らしい作品。いつもぼんやりとしか捉えられていない「アメリカン・ニュー・シネマ」というものの輪郭が、本作を通じて、自分の中で少しくっきりしたように感じています。
作品中でははっきりと主人公ボビーの過去は描かれませんが、その会話の内容からボビーはそれなりに裕福な家庭に育ち、親からそのピアノの才能に期待を受けていたものの、その世界のしがらみや親からのプレッシャーに嫌気がさして、家を飛び出し、その後は定職に就かず中途半端にその日暮らしのように生きてきたことが容易に想像できます。
このあたりの背景を敢えて作中で映像化しないことで、作品の時間を不用意に長尺にせず、逆に鑑賞者の想像力を掻き立てられ、主人公の衝動的な言動などの裏にある自分自身に対するふがいなさ、苦しみ、後悔などの様々な思いを膨らませながら観ることができます。その結果、あの余白たっぷりのラストシーンがさらに深みと余韻溢れるものになっていたと思います。
大きな抑揚のある物語でも分かりやすいメッセージをストレートに打ち出した作品でもありませんが、当時の時代背景的にも主人公のもがきと人生の停滞感に共感する人はたくさんいたでしょうし、今観ても、そこにある普遍的な苦しみが刺さる方はたくさんいる作品ではないかと思います。