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ザ・ビートルズ:Get Backのkmtnのネタバレレビュー・内容・結末

ザ・ビートルズ:Get Back(2021年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

ゴールデンウィークで死ぬほど時間があったので、子どもを抱っこしながら5日かけて見終わりました。


見る前はやはりこの長大な上映時間にビビりましたが、スタートしてみれば他の方の言う通り、 時間が全く気にならない出来。
とにかく素晴らしい体験だった。


トピックスが多すぎて、どこから語れば良いのかさっぱり分からないけれど、
最初にRHYMESTER 宇多丸さんの本作を観た感想について触れたい。
西寺郷太さんがゲストで来られた回で「彼らは親友なんだなとつくづく思った(うろ覚え)」とコメントしていた。


西寺郷太と宇多丸、「ザ・ビートルズ:Get Back」を語る【1969年のビートルズ】
https://www.tbsradio.jp/articles/49925/


ビートルマニアの間では、この頃の4人はとにかく険悪で有名な時期。
70年に公開された本作の元ネタと言える「レット・イット・ビー(記録映画)」に於いても、とにかく喧嘩ばかりで当時のファンはその内容に阿鼻叫喚……などなど色々言われている。


僕自身、恐ろしすぎて70年公開「レット・イット・ビー」は未見(そもそも見る手段が違法な方法しかなかったはず)。
あれをピージャクが再編集すると聞いた時、「あの(悪い意味で)有名なゲットバックセッションを今更どうするの……?」くらいの感想だったんですが、
蓋を開けてみればこれはもう素晴らしい映像作品。ビートルマニアならば当然必見だし、ビートルズを知らない人にも冒頭だけでもいいから見て欲しい作品でした。


ここで先程の宇多丸さんのコメントに戻る。
この頃はとにかくファンの間でも「不仲」が強調されるし、実際観てみると、それも分かる内容なんだけど、
根本的にはやはり彼らは親友で、彼らにしか分からない不思議な力みたいなものが確かにそこにある。


結局アップル・コア(ビートルズの面々が設立した企業で、音楽事業から果ては家電の開発や、ブティック経営までやっていた)の負債をはじめとした様々な要因で、この「ゲットバックセッション」の時以上の険悪さとなり、翌年に解散するに至るわけである。
超巨額の借金や、楽曲の著作権問題など、通常であれば絶対に関係修復は不可能であろう数々の問題を乗り越えて、70年代に彼らは再びお互いを必要としあっている。
本作ではそれを十二分に感じることが出来る。
歴史とも言える映像あるが、それと同時に青春映画的な側面を持つ。
青春は当然いつかは終わってしまう。
これは素晴らしい関係性だったある4人の若者の青春が終わる時を映した作品でもある。


【スピリチュアル・ビートルズ】70年代半ば、急接近していたジョンとポール メイ・パンが語る「失われた週末」
https://www.kyodo.co.jp/col/2021-05-15_3611865/amp/


そして、そういった人間関係の側面を抜くにしても、楽曲制作のシーンはとにかく凄まじい。
僕は音楽に疎いので、一般的なプロのミュージシャンがどの様な感じで楽曲制作をしているのかよく分かっていないが、
ビートルズの4人が曲を作る作業は正にセンスオブワンダーで、文字通り「魔法みたい」だった。
ポールが口ずさみ、メンバーがそれに重なり合わせていくと、いつしかそれは音楽になっている。


そして、別のバンドの話になるが、ブライアン・ウィルソン(ビーチボーイズ)のことを僕は思い出した。
彼は一人でビートルズに挑みロックの歴史的名盤「ペットサウンズ」を作った。


一人で挑んだそれはセールス的に不発で、更には身内であるはずのバンドメンバーからも否定をされて(実際はメンバーにも賛同者は一部いたが)、
それがキッカケとなり精神を病み、彼は長い間に渡って表舞台から消えなくてはならなかった。


ラブ&マーシー 終わらないメロディー
https://eiga.com/amp/movie/80329/
※ブライアン・ウィルソンの苦悩は上記の映画に詳しい。


ビートルズはひとりひとりでは、やはり歴史を変えることは出来なかったと思う。
ジョージ・マーティンや、ブライアン・エプスタイン(マネージャー※本作の段階では亡くなっている)、マル・エヴァンズ、グリン・ジョンズ、その他様々な人たちが彼らの才能を愛して、協力した結果がビートルズで、
そしてその真ん中にはやはりジョンとポール、ジョージ、リンゴの4人がいる。
その4人が楽器を持って、ステージに立った時、それは歴史上のどんな偉大なロックバンドをも遥か後方に置き去りする、強烈な輝きを放つ。正に無敵なのだ。


ルーフトップコンサート自体はこれまでも映像は公開されていたが、
ピージャクの編集でより多角的に観れる。様々アングルの映像が並べられており、新鮮。
これまでネットに落ちているものを断片的にしか観たことがなく、通して見るのは初めてだったのだが、
街頭インタビューでは「うるさいから止めてほしい」という意見もちらほら記録されており、
これもまた普段語られることの少ない、歴史の中の真実なんだなと思う。


個人的には警官に配慮し、消されたアンプをまた点け直すジョージと、諦めてジョンのアンプも点けて「やれやれ」とでも言う様な表情をするマル・エヴァズが見どころ。
因みにマルは後年、警察に射殺されるという悲劇的な最期を迎えることになるのは、また別の話(ジョージ・ハリスンが遺族の為に色々と取り計らったことは書いておくべき事柄だろう)。


しかし改めてこの段階で、ジョージとポールの対立は顕著である。
ジョンとポールの関係性は有名であるが、実は一番拗れた関係性だったのがジョージとポールと言われている。
後年のアンソロジープロジェクト(94年)でも、新曲のアレンジで若干揉めたと話を聞いたことがあるが、
基本的にはジョージはポールにとって、レノン=マッカートニーよりも下の存在なのだろう。


作品のなかで、脱退騒動で揉めるジョージに対して、ポールは度々彼を尊重するという様な発言をしているが、やはり教師的な目線で、ジョージからすれば終始偉そうに感じたのかもしれない。
ジョージは人格者として知られていて、ビートルズのメンバーの中でも交友関係の広い人物(ビリー・プレストンをスタジオに招聘したのはジョージと長らく言われていたが、事実は異なっていたらしい)。


更に本作より一つ前のアルバムである「ホワイト・アルバム」制作時には、
リンゴがやはりポールの指示癖に嫌気が差して、ジョージ同様に、一度バンドを脱退しかけている(スタジオに花を飾って、メンバーがリンゴの復帰を祝ったエピソードが有名で、これが後にオアシスの「Don't Look Back in Anger」のシングルジャケットの元ネタになる)。


レビューを見ているとポール擁護の意見をチラホラ見かけるが、
ジョージと並んで温厚な性格で知られるリンゴまでもがポールのせいで脱退を考えていたのだから、
ポールのやり方は、観ているだけでは視聴者には伝わらない何か悪手なものであったのだろうし、
おそらく「ゲットバックセッション」よりも前の段階で、ビートルズというバンドは終わってはいたのだと感じる(そもそも撮影をしているのは分かっているのだから、ポールも言い方は加減しているはず)。


結果として、ここまでを読み返すと、ポール批判が多くなってしまったが、
ビートルズの解散理由は複合的なものだと僕は考えているし(当然オノヨーコだけのせいでもない)、
ポールに全ての責任があるとは思っていないということは、改めて書いておく。


69年9月にはジョンもポールと口論になり、遂に脱退を宣言。
契約の都合で、公式には脱退を発表はしなかったが、これ以後ジョンがビートルズの案件に顔を出すことは一切なくなった。
これが事実上のビートルズの解散となる。
そして各自がソロ、あるいは新バンドでのキャリアをスタートしていく。


ポール・マッカートニー、ザ・ビートルズ解散の原因を語る「メンバー全員が理解していた」
https://block.fm/news/PaulMcCartney_OnoYoko_Rumor


彼らはそれぞれ70年代も(もちろん、それ以降も)大いに活躍するが、それでもやはり4人でやっていたあの頃までの成功は収めることは出来なかった。
いや、それどころか、彼ら4人だけではなく、少なくともロックアーティストに限るならば、
ビートルズよりも成功したバンドは解散から50年経った今でも存在しないのだ。


これはやはり青春映画だと僕は思う。
青春は終わらないといけない。
当人、あるいは他者がそれを望もうが臨むまいが。
と言うわけで最高でした。必見です。
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