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PIG ピッグのkissenger800のレビュー・感想・評価

PIG ピッグ(2021年製作の映画)
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面白かったっすね、エンディングが流れるまでは。だってあの曲さあ……まあいいや、まずは主演の話から。

ニコラス・ケイジ、自分が何者かであることを証明するために悪戦苦闘して、証明したらしたで途方に暮れる実人生じゃないですか。
本作が彼のその越し方を写していることはもちろん感慨深いものの、一見「もはや証明する必要がなくなった人物の物語」と思いきや、枯れたように見えても芯の生臭さは抜けないんで。
みたいな展開で十分すぎるほどうさんくさく、そうか、早々に話を戻すとその文脈で考えればエンディングのブルース・スプリングスティーン楽曲も馴染まんではない。

あのね、字幕はずいぶん気を遣ってくれていたけど要はエロスイッチの曲でね(言い方)直前のモーツァルトが良かっただけに落差が。
ってなったんです。編集でカットされたところに、「あの曲」を「あそこ」で流す説明はきっとあったんだろうけれど。

違和感仕事しろ、ってフレーズに倣うと本作の「違和感に仕事させる」コンセプト、豚に始まりニコラスの佇まい、車、前歴etc., etc., やり過ぎになる前にそっと引く制作者の手つきには感心して、その代表と思えたのがメインディッシュとして登場する鳩肉とシャンピニオンのロースト。
もちろん文化圏の内側のひとたちにはオーセンティックな一皿だけど、我々にはちょっとした違和感あるじゃないですか鳩肉。
そしてその違和感、制作者の意図なのか記号としての美食要素なのに見る側が勝手に覚えるものか-正解は無いわけで。

つまりエンディング楽曲に覚える違和感云々を追求しても誰も得しないんだから止めるんだ俺。えーワタシ鳩肉苦手ー。って言うようなものだからただバカっぽいだけだぞ(なおワシントンポストのレビューで当該曲言及あったので、アレが気になったのは俺だけじゃない、って慰めは有ります)。

明後日の方角に行ってもう戻ってくることはないだろうと思われたニコラスお帰りなさい作品群のひとつとして世評に違わぬ出来だったのがなによりの慶事で、少なくともこれはトンデモ系譜に入れたら駄目なやつ。だいたい『マッチスティック・メン』(2003)あるいは『アダプテーション』(2002)以来では。
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