幽斎

スマグラー 不法出国請負人の幽斎のレビュー・感想・評価

3.6
初めて北マケドニア作品を観たのは「ハニーランド永遠の谷」6月に開場したアップリンク京都で鑑賞。このレビューも6月に書いてますが、ひと月に北マケドニア作品を2本。何かのご縁かもしれない。久し振りに出雲大社に行こうかな(笑)いい所ですよ島根。

北マケドニア共和国。時事問題に詳しい私も、ユーゴスラビアだった位しか思い出せない。ギリシャ、ブルガリア、アルバニア、セルビアとコソボに囲まれ、経済的には最貧国に等しい。国の呼称問題で周辺国との関係は悪く、EUの中でも友好国はドイツぐらい。今は内政を落ち着かせ、政治を安定させるのが先決。町並みはギリシャに近く雰囲気は良いので、観光が唯一の光かもしれない。

この作品を観るとレビュー済「トラフィッカー運び屋の女」のアイスランドが先進国に見える。これもレビュー済「カルガ積荷の女」もポルトガルの人身売買を描いて社会の暗部を浮き彫りにしたが、本作で描かれるのは不法入国者の移民斡旋業。東南ヨーロッパの小国、北マケドニアに暮らす主人公ラザールは、貧しい人々を周辺国に不法入国させる組織で働く。しかし、偶然知り合った若い女性と恋に落ちて、今までの考え方が揺らぎ始める。ラザールの義兄トニが同じ組織に入り、違法行為に手を染める。そして、トニと同行したラザールは、残酷な選択を強いられる・・・。

ジャンルとしてはクライム系だが、日本から遠く離れたEUの中でも忘れられた小国の悲哀は観ていて辛い。話題に為るのがマネー・ロンダリングや違法サーバーで、経済の低迷が長く続くと国民の民度まで疲弊し、最早稼げれば何でも有りな社会で、其処には根本的に解決すべき妙案も無い。正教会が頑張ってる様だが、本当に宗教しか拠り所が無い哀しい現実を目の当たりにした。

異文化を感じる北マケドニアの町並みは綺麗で、もう少し見たかった位に印象に残った。ラスト10分に明かされるオチも想定内で、物語が起伏に乏しく映画的完成度は低いが、知らない世界に触れるのも映画の楽しみの一つなので、好意的に受け止めたい。最初に観た「ハニーランド永遠の谷」はオスカー長編ドキュメンタリー賞と国際映画賞のWノミニーを果たした「ポツンと一軒家」で展開するリアリズムとは異質な物語。どちらも金儲けの疵瑕を浮き彫りにしてる。3.6とアベレージは低くしたが、一見の価値は有る。

格差では無く国民全てが貧しい国を描く社会派スリラー、私には本作を悪く言う事は出来ない。
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