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デュー あの時の君とボクのひこくろのレビュー・感想・評価

デュー あの時の君とボク(2019年製作の映画)
4.6
ポップとデューが出会う冒頭から、青春映画全開という感じでとても気持ちがいい。
その後、二人が仲を深めていく様子も、彼らの生活の描写も、本当に王道の青春映画といった感がある。
どこか、良質な台湾の青春映画を思わせる、その映像と話には、台湾映画好きとしては釘付けになってしまった。

二人はお互いを求めあうが、時代は同性愛に対して否定的な頃、しかも街にも偏見が満ち満ちている。
周りに知られることを恐れ、疎遠になっていく二人。
そして、ポップはついに街を出て行ってしまう。

青春映画の瑞々しさはありつつも、同性愛の生々しさ、せつなさ、やりきれなさもしっかりと描く。
単に周囲の反応だけでなく、家族との関係もあり、二人の青春は終わりを迎える。
ここのせつなさも、またたまらない。

でも、この映画の面白さはそこでは終わらない。
ここまでの話だけでも、十分に上質な青春映画として成立するのに、物語はさらに続いていく。
出てくるのは23年後の、高校教師となり街に戻ってきたポップ。

この時点でかなり驚いたというのが正直なところだった。
23年後を描くのはわかる。でも、その場合、主役は街に残ったデューだろうと思っていたからだ。
そこからも、物語は斜め上に向かって、どんどんと突き進んでいく。
こうなるんだろう、という予想はことごとくハズレ、想像もしていなかった展開が繰り広げられる。
それでいて、ちゃんと過去の話ともきっちり絡んでくるのだ。

もう、目が離せないどころじゃない。
女子高生のリウに、どこかデューを重ねてしまうポップは、彼女との距離を縮めていく。
しかし、彼女には彼女の生活があるし、ポップにはポップの人生がある。
そこが絡みそうで絡まなくて、もどかしくなっていくのが、また上手い。

冷静になってしまえば「そんなことあるかい!」とか、「おかしいだろう」と突っこみたくなるのかもしれない。
でも、二人の瑞々しさと、関係の美しさ、儚さ、過去への郷愁が、それをそうと感じさせない。
気づけば魅入っていて、二人が抱き合うシーンでは涙がこみ上げていた。
形は不思議だが、素晴らしい青春映画だと思った。

元は韓国映画らしいけど、そちらは観ていないのでわからない。
でも、これ単体として素敵な映画になっていたと感じる。
タイの映画の美しさ、瑞々しさ、気持ちよさに、あらためて感服した。
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