よーだ育休中

アオラレのよーだ育休中のレビュー・感想・評価

アオラレ(2020年製作の映画)
3.5
寝坊。渋滞。思い通りにいかない《不運》な朝。信号が変わっても発進しない前の車に激しい二発のクラクション。怒りをそのままぶつけてしまった事で、悪夢の様な一日が幕を開ける。


◆煽り煽られ共倒れ

プー太郎の夫との離婚調停が難航し、疲弊し切ったRachel(Caren Pistorius)がアオラレ役。寝坊と渋滞のダブルパンチによって子供を学校に遅刻させた上に、顧客から愛想を尽かされる。(時間にルーズなのは〝今日〟だけではないことが示唆される発言もちらほら。)

自動車工場で業務中に負傷し、労災がおりるどころか不当に解雇された恰幅の良い男(The Man:Russell Crowe)がアオリ役。妻の不倫で離婚したにも関わらず、弁護士から食い物にされた男は、ハンマーと灯油で報復した直後だった。


派手なクラクションを数発お見舞い。なんとも失礼な追い越し方をしたRachel。正直、これはマナーが悪すぎる。子供が背中を見ている前で取る行動では無い。

内心穏やかでは無い男は、最初は紳士的な振る舞いをみせる。攻撃的で失礼な行動をとったRachelを諌めながら、自分も〝考え事をしていた〟と過失を認めて謝罪する。


エスカレートして歯止めが効かなくなった男の行動は許されない。だけど、直前のRachelの行動だって絶対におかしい。クラクションを派手に鳴らす前から、渋滞を強引に追い越してフリーウェイに乗り込んだり、同じように強引にフリーウェイから降りたり。子供が乗ってるんだよ?事故るよ?子供の方が冷静で的を射ていて、よっぽど思慮分別があったよ。

アオる方が絶対的に悪いと思っていましたが、これはアオラレる方も悪いなと思ってしまいました。そして結局、痛みを伴わない教訓には意味がないってことなんでしょうかね。息子ちゃんの最後の一言が鋭すぎる。


◆こんな世界に誰がした!

不況、リストラ、離婚、運転トラブル。警察の人手不足による《治安の悪化》と《自警の正当化》によって、社会全体が攻撃的で人間関係に不和を抱えていることが冒頭で言及されていた今作。これは決して作品の中の話だけではなさそう。

2017年からの4年間。共和党のTrump大統領が政権を握って自国第一主義を掲げていた期間。合衆国は〝世界の警察を辞める〟として、世界規模のナショナリズムが台頭した時期。制作スタッフはTrump政権が大っ嫌いだったんじゃないかな。


アオラレる車は共和党のシンボルカラー。
登場人物の衣服は民主党のシンボルカラー。

アオリ役の彼は疲弊し切ったブルーカラーを象徴していて、その目的は金や物では無く《暴力》そのもの。時の政権の主な支持層であったブルーカラー達の、溜まりに溜まった鬱憤を爆発させた作品だった様に見えました。煽った方も煽られた方も、どっちも悪くてどっちも可哀想。本当に悪いのはこんな世の中にした政治なんだと。


一方で、Russell Croweはしっかり悪者なんだけど、彼の代表作でもある【グラディエーター】を彷彿とさせる部分をちらちら感じた。虐げられた男が復讐に燃えるスタンスは、品格と威厳の差があるだけで(これが大きな差になるのですが)今作の男も反逆者という意味では同じだったのかなって。(サイコなバーサーカーになって理性が蒸発していましたが。)当時の大統領、皇帝ばりに嫌われてたもんなー。


◆ラストメッセージが受け取れない

最後の最後、弟が生きていたという報せは果たして吉報だったのでしょうか。姉の蒔いた種によってとばっちりを受けた彼。婚約者を惨い方法で殺され、自らも暴行を受けた末に身体を焼かれ、心身共に大きな傷を負ったことは間違いない彼。

姉は一体どんな顔して彼に会うんだろう。
彼は一体、どんな目で姉を見るのだろう。
生き延びたことを喜んでいるのだろうか。

希望と捉えて良いのか、この結末には真剣に悩んでしまいました。あ、僕の性格に難があるだけ?