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ヤクザと家族 The Familyのnetfilmsのレビュー・感想・評価

ヤクザと家族 The Family(2021年製作の映画)
3.7
 最初のうちは暴力団に入った山本賢治(綾野剛)の成長譚や、親子の契りを結んだ柴咲博(舘ひろし)との疑似家族の物語だと思ってぼんやり観ていたのだが、主人公にとって空白というか苦悩の中で過ごした14年の歳月の前と後では作品自体が丸っきり様変わりしている。特にクライマックスにかけての山本自身と彼を巡る者たちの苦悩がスクリーンにありありと照射される様は容赦なく、綾野剛の演技にも引き込まれたが、それ以上に若頭の中村(北村有起哉)や細野(市原隼人)の演技にあらゆる意味でぶっ飛んだ。どうやら製作委員会の中で北野武の『アウトレイジ』3部作とは役者が被らない暗黙のルールがあるようで、僅かに菅田俊だけがほぼ同じような役柄で出て来るが、端役に至るまで各人が本当に良い芝居をしている。

 我々は普段、ヤクザと縁遠い世界に生きているが、そういう人間にとっても昭和・平成・令和の社会の急速な変化の中で、取り残されてしまう人たちを数多く見て来た。映画はそんな時代に取り残され、置き去りにされた人たちの叫びを静かに掬い取る。暴力団を社会から完全に排除したい国家権力にとっては暴対法はうってつけの法律だが、人権感情に則れば明らかにやり過ぎな面は否めない。昭和の頃の古き良きヤクザ映画に観られたような跡目争い、組同士の抗争もあるにはあるが、それ以上に筆圧高く描かれるのは半グレと呼ばれる暴力団未満のグレーゾーンの存在である。義理と人情は昔の話で、一番の若者にとってここでは誰が父親の仇なのかということのみが議論される。だが彼も最後の最後に物事の本質に気付くのだが。異質への差別はエスカレートして排除につながる。それは今作で描かれるヤクザも一般市民も実のところ、同じ構造ではないか?

 恐らく藤井道人監督は暴力やヤクザが描きたかったのではなく、ヤクザを巡る日本という国の雰囲気の変化を捉えたかったのではないか。それは大方、成功しているように感じられる一方で、私がどうにも座りが悪いと思うのは登場人物たちの全員が、ここでしか生きられない人物として、狭い視野しか持ち合わせていない点にある。14年間、娘を必死で育てて来た母親の意地とプライドは、TWITTERのコメント欄で繰り広げられる真偽不明の噂話程度に絶対にへこたれないはずだし(実際、正社員の解雇の仕方としても相応しくないため、労働基準監督署に持ち込むべき案件だ)、そもそも汚職者たちの結託レベルが柴咲組にとってどう考えても無理ゲーで、最初から議論の余地もない。家族を持った者、家族に捨てられた者たちがアンビバレントな感情の中で苦悩するのは大いに結構だが、父親の死が彼らを決定的に変えてしまったと断言するには、いささか短絡的過ぎるし、脚本の練り込みも映画の尺そのものも十分ではない。一方で英雄として崇めながら、もう一方で陽の当たらない悲劇の者たちという印象を与えるには、もう少し演出に再考の余地がある。願わくばもっと尾野真千子や寺島しのぶの母親としての陰影に、フリーハンドで任せるべきではなかったか。
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