骨折り損

ヤクザと家族 The Familyの骨折り損のレビュー・感想・評価

ヤクザと家族 The Family(2021年製作の映画)
4.5
余韻に、圧倒された。

映画を観る前に主題歌Familiaを聴いた時、全然ピンとこなかった。PVを見ても、ふーんくらいだった。

映画を観た後、Familiaで泣いた。狂ったように一曲だけを毎日リピートしている。PVの物語性にも感動した。映画を観る前と観た後では全くの別物のように感じた。

凄い、映画の力だ。

やられた。洒落た言葉でこの映画から感じたものを書き連ねようかとも思ったが、全部Familiaの歌詞に詰まっていた。あの歌詞を何度も何度も読み返してしまう。美しい言葉たち。

ってFamiliaのレビューみたいになっているが、それだけあの曲が映画の世界観を凝縮してくれているのだ。

さて、映画は儚かった。
どことなく常に死の匂いを感じさせられた。それは、危険な世界に身を置く人たちだからもあるが、それだけじゃない気がした。俳優たちの目が皆、どこか達観視しているかのようだった。遺愛という言葉がスッと頭に浮かんだ。

個人的な妄想だが、この映画は死ぬ前の回想を描いているように見えた。Familiaの歌詞にもある、走馬灯だ。誰かが死ぬ前に駆け抜けた記憶の断片たちを覗き見したようだった。

ああ。この映画の事を思い出す度に胸が締めつけられる。辛い世界だが、この世界観自体にどっぷりハマってしまっている自分がいる。どこか心地がいい。

この世界の人達が愛おしく感じる。まるで家族のように、自分も他人事のようには感じられない。どのキャラクターも魅力的で、誰かの演技がなどと語る必要もない。ただ、舘ひろしの登場シーンだけは驚かされた。
焼肉屋で不良少年の綾野剛らがヤクザの親分舘ひろしと初めて会うシーン。舘ひろしを見て、一人が言う。
「あの人オーラ半端ねぇな」

本当だ。

実際に一瞬映った彼の立ち姿に、画面から圧力を感じた。なんてことはない、のれんをくぐって店に入るだけの映像。なのに、なのに。大体映画のそういうセリフは、ていでしかないが、初めてだった本当に共感したのは。思わず声が出そうになった。

もうここから先は、映画の嘘なんて頭の片隅にもなかった。映画だということを多分、忘れて見ていた。ただ画面に映る彼らの人生を見ていた。


率直に傑作だと思った。それに尽きる。


いい映画を観たんだ。
骨折り損

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