このレビューはネタバレを含みます
去年の井筒監督の「無頼」で印象的なセリフ「ヤクザは生きるなってことだろ」
まさに「無頼」のその先の時代、ヤクザが生きられなくなった時代を描いたような作品。
といってもそれなりに入ってる劇場を観ても「無頼」観てる人なんかいないんだろうな、と悲しくなるくらい若い人が多かった。
監督の前作「新聞記者」はどうも踏み込めなさが気になる作品ではあったんだけど、
今作もそこまで踏み込んだ内容にはなっていないまでもそのスタイリッシュさが若い観客にとっての観やすさにつながってるんだと思う。
スタイリッシュといえばこの映画の主題歌のmillennium paradeの「FAMILIA」のMVも映画とリンクするような内容で非常にスタイリッシュ。
スタイリッシュ。
スタイリッシュさの担保として役者陣の演技が光っていて、
主演の綾野剛はもちろん、いままで鼻で笑ってたけど今回の市原隼人は本当に良かった。
イキり散らしている2005年の時に比べて14年後の綾野剛と対峙する本来なら必要のないはずの緊張と恐怖が含まれた焼肉をおごってもらうことすら拒む小者然とした演技が本当に上手い、
この市原隼人の演技だけでヤクザという存在が14年の間にどれだけの扱いを受けてきたのかが一発でわかるほど
群を抜いて良かった市原隼人をおいとくとしても14年後の枯れ方はほぼ全員良かった(尾野真千子は2005年時点でだいぶ尾野真千子だったけどまあ劇中でも言及されてるし…)
またヤクザ役という意外なキャスティングで言えば1999年時の北村有起哉がすごくて、焼き肉屋の台詞のない視線と表情だけの演技が本当にリアルな怖い人に見える。
北村有起哉といえば「本気のしるし」での闇金社長みたいな役もやってたけどヤクザ役はイメージになくて、
「アウトレイジ」以降のヤクザ役にはそういうキャスティングの妙もある気がする(そもそもヤクザ映画自体そんなに作られてないから余計に)。
また、この役がそもそもクスリが禁止されてた組が追いつめられてクスリに手を出すようになるっていう皮肉もお話として面白かった。
逆に舘ひろしは別に悪くはないんだけどただ舘ひろしだった。
笑っちゃうくらい小っちゃい声の「ごくろうさん」が記憶に残るくらい。
ちょっと茶化したような感想ばかりだけど観る前に抱いていたスタイリッシュさだけが先行した、いけ好かないヤクザ映画もどきといった印象は結構覆されたし、
観ててそれなりに涙を流した。
上のほうでスタイリッシュとしか言ってない「FAMILIA」のMVも観終わった後に観て思わず落涙してしまったくらいには良かったです。はい。