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デスペラードス 〜崖っぷち女子旅〜のLCのレビュー・感想・評価

3.7
面白かった。

「 Desperado 」という言葉は、スペイン語圏でもそれほど一般的ではなくて、スペイン語話者同士で「この言葉なんぞ?」と話すこともあるし、英語圏で使われるとまた違った意味を持つので、混乱を招くこともあったりする。
日本では某映画や某プロレスラーのおかげで「ならず者」という意味が親しまれている印象。
とりあえずひとつひとつ意味を拾っていくと、「絶望した状態の者」を起点にして、「法を破る者(無法者)」とか「何も失うものがない(故に暴れ回る)者」とか、そういうイメージを獲得したような感じ。ちなみに英語圏では「アメリカ西部の盗賊(19世紀頃)」のことを意味する。
そして、絶望しながら死に物狂いで暴れ回る様子から「忍耐力がない」という解釈でも使われたりする。
作中、主人公はとんでもなく暴れ回るし、盗みも働くし、刑務所にも入れられるし、辛抱強く他者に寄り添う姿勢の欠如にも直面する。
ただ、題名は「 Desperados 」と複数形(且つ、男女混合形)になっている。主人公だけを指しているわけではないんだね。

良くも悪くも主人公がエネルギーに溢れていてすごい。
何も上手くいかなくて、自分の性格がこれじゃあ受け入れてくれる世界があるかどうかもわからん、という時に、偶然出会ったトキメキを必死に追いかけていく。
そんな主人公の話を聞いたり、一緒に駆け回ってくれたりする人たちも、同じように集中したい問題があったり、追いかけたい何かを追いかけたりする。
死に物狂いで暴れ回った自分の側で全て見ていて、それでも忍耐強く付き合ってくれていた存在には、感謝の念が凄まじい。わしが勝手に抱いているだけではあれど。
そして、そんな存在より大切だと感じてしまうひとときの必死さを改めて認識したりもする。主人公が見せてくれるような恋は身近な例かもしれない。盲目になる、なんて表現は聞き飽きるくらい、あちらでもこちらでも使われるね。

自分を偽ったままではいけないと腹を括った主人公から「ヒゲもはえるよ、綺麗にしてるの」という言葉が出てくるのは、クスッとする。そらそやろ。もっと言えば、腕も足も綺麗にしとるんやろ。鼻毛だって伸びるやろ。
でも、知らない人は本当に知らないのかもしれない。
そういう人が、ひとつ屋根の下で共に暮らした時、彼女のお手入れが行き届いていない姿を見たとして、びっくりしたり、ショックを受けたりするのだろうか。風邪引いたりとか、可能性は十分にあるわけで。
そんな感じの視点で見ても、やっぱり「理想的な存在として側に居続ける」ことは難しいが過ぎる。酷いメールひとつで夢が壊れる人とは、すぐ苦しい日々を迎えることになっていたかもしれないね。
酷い仕打ちをしてしまっても、誠心誠意謝る言葉をきちんと聞いてくれる存在が、彼女にはちゃんと居たしね。

ホテルの人たちは災難だったなあ。仕事が何倍も増えたのではなかろうか。仕事人にも忍耐強さが必要だよね。ボーナス弾んでもらってほしい。
子どもくんに至っては、こう、彼自身が飢えている気がしなくもない。今後も安易に誰かを好きにならないといいなと願ったりする。愛してくれる存在は、まず同年代の相手と向き合ってからじゃないかな。でも、主人公を心底心配してくれてありがとうな。何となく彼も、ひとりの desperado だったのかもと感じる。
猫さんは最高にかわいい。癒し。愛くるしいならず者。

海を見て、ヤギに怒鳴って、パーティで踊って、唯一無二の旅を走り抜いた。
5分で妊娠の夢を打ち砕かれて、ペテン師呼ばわりした相手と体を重ねて、それもまた独特な旅だった。
イルカはなんていうか、それもまた独自の思い出にはなるよね。笑い話にできたら素敵。ぶったまげちゃうような体験だけれどね。
それぞれのぶっとんだ旅を、それぞれが走り抜けた。そんな人たちと一緒にぶっとんだ旅を経験したような気分。
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