natsu

あのこは貴族のnatsuのレビュー・感想・評価

あのこは貴族(2021年製作の映画)
3.6
乗り物による描写が好きだった。
たとえば、華子がタクシーに乗っているときに、自転車を漕ぐ美紀を見つけるシーン。それぞれの境遇とそれぞれの人生の進め方を表象しているようで、秀逸なシーンだな、と思った。

タクシーでの移動って、自力で運転しなくていいし、お金さえ払えばただ座っていればいいけれど、交通ルールのしがらみは自転車以上に多くて。そして時には、周りからやいのやいの言われることで、自分の意思とは無関係に進めなかったり、進まされたりする。華子って、ずっとそういう人生を送ってきたんだろうな、と。

反面、美紀ちゃんは自分の足で自転車を漕いでいて。もちろん、タクシーと違って自分の体力が必要になってくるんだけど、タクシーよりも細い道に入れたり、車に乗っていると気づけない光景に気づけたりする。

どっちがいいとか悪いとかではないけれど、階級の違いとか男女差別とかって、そういう「交わらなさ」がどこまでも長く続いている感じがあるよなあ、と。もちろん、乗りたい方に乗ればいいのだけれど、乗り方によっては無自覚に人を轢いてしまったりする。(そう、華子がカフェで美紀ちゃんに対してなんの邪気もなしに言った「信じられない…」の台詞のように。)

「どっちだから不幸」ということではなく、自らの意志や選択が介在しない状態でその場所に立たされている、ということが、何事においても物凄く窮屈で不幸なことだよな、と考えた。

だからこそ、最後の最後に華子ちゃんが自分でハンドルを握って運転していることに、ぐっとくる。
natsu

natsu