ひでG

あのこは貴族のひでGのレビュー・感想・評価

あのこは貴族(2021年製作の映画)
4.2
これも高評価の公開時からずっと観たかった作品。
よーやく旧作扱いのコーナーからレンタルして視聴。
評判に違わぬ良作でした。この映画から感じることは、(少しオーバーな言い方かもしれませんが)日本映画の良き伝統をきちんと受け繋いでいるなあという点です。
概して(こーゆー〇〇人は、的な言い方は問題もありますが、、)
我々は、自ら自己の感情や思考を語ることが不得意なお国柄。
だから、そういう語られない感情表現を表すのは、昔からとても上手だと思うんです。日本映画の登場人物たちは、ハリウッドやフランスやましてやインド映画に出てくる人たちより遥かに無口です。(アキ・カウルスマキの人たちには敵いませんが😆)
微細な表情の変化により生み出されるドラマを私たちは作り、観てきたのです。

この作品は、「育ちの違い」を題材にしています。ですから、その差が話題になります。
それが直接的に表れされているセリフもあり、それがとても印象にも残ります。(お紅茶5000円!)ですが、殊更にその差を強調して示してはいきません。

例えば、2つの家族のお正月の風景を並べて見せることによって、そこに大きな隔たりがあることを効果的に見せています。上手いですね〜 

門脇麦の家族。松濤に住むお金持ち一家のホテルでのお正月。料理も場所も超一流ですが、交わされる会話は、個人よりも一族を、自由よりもしきたりや立場を慮るものばかりで堅苦しいです。

一方、水原希子のお正月。迎えに来た弟の車窓から見えてくる、いかにも寂れた地方都市。お正月料理はあるけれど、弟はそのまま出て行き、父親もひとりしけた感じで迎えます。
束縛するものはないが、経済的な支えもな言い方冷たい感じがします。

これらにダメ押しのセリフで付け足したら、一気に安っぽいドラマになってしまいます。
「なぜ、家の家族は、、なの?」みたいな。
懐古だけのあのシリーズみたいに、一方の価値観だけを無理クリ押し付けてきたとしたら薄っぺらいものになったでしょう。(貧乏は美しいみたいな💦)

お正月の宴席で婚約者と別れたことを告げた門脇麦演じる華子は、婚活に勤しみます。
ここら辺は、現代の「細雪」といった感じです。居酒屋の汚い個室でびっくりする華子のショットなどでより彼女の貴族性がよく表れてきました。あの婚活が酷いだけにその後現れた高良健吾にときめいちゃうのもよく分かります。

門脇麦の華子と水原希子の美紀。2人の育ちの違いを対比的に描きながら、そのどちらにも属さないニュートラルな存在として、バイオリンで生計を立て自立している石橋静河演じる逸子。この人物を配したことで物語はさらに膨らみ、豊かに進んでいきます。

「人の幸せはお育ちではない!」いや、お育ちは決して無視することはできません。
だけど、貴族であれ、庶民であれ、
松濤でも、地方出身でも、歩むのは自分の脚です。感じるのは自分のハートです。
そこからじゃないと、それを大切にしないと
先には進めない、

そんな静かでも力強いメッセージがこの映画には込められている気がします。

慎ましく、さりげなく、飾らずに語って行く日本映画の良き伝統を新しい監督さんが繋いでいる。そんなことも嬉しく感じさせてくれた作品でした。
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