一人旅

リフ・ラフの一人旅のレビュー・感想・評価

リフ・ラフ(1991年製作の映画)
5.0
ケン・ローチ監督作。

ロンドンの建築現場で働く男の日常を描いたドラマ。

イギリスの名匠:ケン・ローチ監督による社会派ドラマの良作で、例によって労働者階級の人々の日常の風景をユーモラス&温かな視点で見つめています。主演はデビュー間もない頃のロバート・カーライルで、『トレインスポッティング』や『フル・モンティ』への出演で知名度を上げる前の貴重な芝居を拝見できます。

グラスゴー出身で刑務所から出所したばかりの男:スティーヴを主人公にして、ロンドンの建築現場で働き始めた主人公と同じく訳ありな同僚達の仕事風景と、主人公が現場で拾ったバッグをきっかけに知り合い同棲を始めた歌手志望の女:スーザンとの恋愛関係の顛末を中心に描いていきます。

ケン・ローチは90年代以降一貫して“労働者階級”を主人公にした社会派作品を撮ってきた映画作家ですから、本作から既にその作風は確立されています。建築現場の劣悪な環境(低賃金・手すりのない足場・ねずみの巣・不衛生なトイレ・漏電するドリル等…)がとことん映し出され、さらには主人公らアルバイトを虫けらのように扱う現場責任者の傲慢なやり方が鼻につきます。そうした現状を打破しようと勇気をもって抗議しようものなら、即日解雇の報復が待っています。劣悪な労働条件・環境を正当な手続きを経て変えることはもはや望めないし、「ヘルメットを被れ」と怒鳴るだけでそれ以外の安全対策を講じない現場責任者の無責任さに対して主人公が取った最終行動は、抜け出したくても抜け出せない貧困という泥沼の現実に嵌った全ての労働者の社会への不満や怒りを荒々しく代弁しています。

そして、社会派でありながらユーモア(エンタメ性)を忘れていないのがケン・ローチの持ち味であります。主人公と気のいい同僚達がどうでもいい話題で大盛り上がりするシーンや、仕事中にモデルハウスの風呂場を勝手に拝借していたら見学者(ムスリム女性)が突入してしまうシーン、遺灰の撒き方に失敗して参列者が灰まみれになってしまうシーン等、少々不謹慎ながらユーモラスな場面に魅了されます。
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