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シンプルな情熱のCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

シンプルな情熱(2020年製作の映画)
2.0
【ノーベル文学賞受賞者アニー・エルノーの世界】
先日、ノーベル文学賞が発表された。2022年は『あのこと』の原作者であるアニー・エルノーが受賞した。成城大学の小室廉太氏が書いた論文「恥をかく──エルノーのエクリチュールから──」によれば、彼女は一貫して「恥」をテーマに、自分の人生に起きたことをフィクションとして語り直す小説を書いているとのこと。「シンプルな情熱」の場合、書いて表現することが恥を省みないことであり、それは恋愛が恥を乗り越える行為であることを描いていると分析されている。では、そうと考えた時に映画はどのように表現しているのだろうか?気になったので観てみた。

映画版は「忘れられない」肉体関係の表象に特化していた作品となっていた。アラン・レネの『二十四時間の情事』における女と男の関係をみて、客観的に恋愛を観るエレーヌ(レティシア・ドッシュ)。しかし、運命の男であるアレクサンドル(セルゲイ・ポルーニン)との肉体関係を前に冷静でいられなくなる。メトロの中でウトウトする彼女に、アレクサンドルの肉体の残像が映り込む。ハッと残像から現実に戻ると、降りる駅だった。この演出は非常にリアルなものとなっており、夢の中で、無意識が生み出した肉体と仮想的に交わることで渇望を満たす表象といえる。

また、本作で興味深いのは息子の描写である。エレーヌがうっとりした顔でPC画面に映るアレクサンドルの姿に酔いしれていると、後ろから「その男だれ?」と話しかける。狼狽しながら、全然、事情を隠しきれていない様子が滑稽である。そんな息子は、恐らく彼女のものであろう真柴なお「百年恋慕」をキッチンで堂々と読んでいる。エレーヌの恥を見つめる存在として、なおかつ恋愛に溺れる彼女にとって、その眼差しすら目に入らない様子が描かれているのである。

こうは分析したものの、正直この手の官能や恋愛に対して興味があまりないのでとっつきにくいところがあった。『あのこと』や日本未公開作である『L'Autre』(「場所」の映画化)は予告編を観る雰囲気、良さそうだが果たして。
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