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Summer of 85のminamiのレビュー・感想・評価

Summer of 85(2020年製作の映画)
2.3
ポスト『君の名前で僕を呼んで』だといろんなメディアで見聞きしたから、そういうムードを想定して観に行ったら全然違った。
もう新しい映画を評価するときに過去の人気作品を引っ張り出して表現するのやめませんか?
(個人が表現するのはもちろんいいけど、メディアとかはやめてほしいという話です)
私個人の意見としては掠りもしないほど似ていなくて、そういうことなら最初から全くの別物という前提で普通に観たかったなぁと思う。

そんなわけで『君の名前で~』ファンとしては、変に期待値を膨らませてしまったため、たぶん前情報なにもなく観た状態よりも辛辣な見方になってしまった気がする。
★1.3…と思いながら、なんとかフラットな状態で観たときを想定して1個プラスした。

衝動を描いたシーンが多く、それが若者の情熱のようなものを表しているんだろうけど、なんとなく違和感が募った。
文学というのはパッションに突き動かされて表出されることがもちろん多いけど、そうすることによって内なるものを既に外に出すことに成功しているので、あれだけ文学的に優秀とされている学生なら、自身でも「発作」と表現するような理性を欠いた行為に及ばないんじゃないかという気がしてならない。

当時はまだ物語を書いていなかったといえばそうだけど、物語はなにも書き始めたときにようやく外に出るわけではなく、身体の中で常にタイピングされ続けている状態というか、文学に優れた人であればそのバランスに偏りはあれどインプットとアウトプット(具体的にアウトプットできなくてもその準備段階ではあるというか)が常にされている状態だと思ってしまうので、なんだかそこにずっと違和感。
そういうバックボーンの子があれだけ自己中に感情のまま動くかなぁ?という気持ちと、あるいはああいう気質の子が本当に文学に優れているのか?という気持ち。

そういう点では、ずっと自分中心で悲劇のヒーローぶりたい感じ、あと恋に焦がれて相手がちゃんと見えていないのは『君の名前で~』じゃなくて『リプリー』とか『永遠に僕のもの』に通じるところを感じた。
その2つの作品は、主人公のまさしくそういう未熟で稚拙なところが苦手で好きになれなかったので、この作品も同じくという感じ。(なお『太陽がいっぱい』は未鑑賞)

あとは主人公以外にももっとフォーカス当ててほしかったな。
ダヴィドはあえて空虚を掴むように深くそのキャラクター性を掘り下げない演出にしたのかもしれないけど、父、母、ケイト、そしてダヴィドの母、もっとじっくり知りたかった。

でもラストはなんとなく好きだった。
鑑賞中、ずっと「どうして『85年の夏』がタイトルなんだろう、ダヴィドとのことを描くなら『6週間の夏』の方がしっくりくる…」と思っていたんだけど、「あの年のあの夏」とすることの意図があそこで伝わった。
これからいろんな人と出会って、いろんなことを吸収して、ちゃんと相手と向き合ったり見つめられたりしながら少年は成長していくんだね。
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