ふじこ

Summer of 85のふじこのネタバレレビュー・内容・結末

Summer of 85(2020年製作の映画)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

”いつも一緒にいたかった
あの362万8800秒を”

一人でセーリングに出掛けたアレックス。
嵐で横転してしまったところに現れたダヴィドに救われ、人懐っこい彼に誘われるように急速に仲良くなり、更に恋愛感情に発展していく。
初めての恋に夢中になるアレックスに、”どちらかが先に死んだら、残された方はその墓の上で踊ろう”と提案するダヴィド。
バカな事を、と思いながら約束をさせられるもある日喧嘩して飛び出したアレックスを追い掛けたダヴィドが事故に遭い、帰らぬ人に。


瑞々しい、青い気持ちが隅々まで描かれていた。
初恋の甘酸っぱさというか、もう相手以外に考えられないくらい舞い上がる気持ちとか、その人こそが運命の相手である、とか。
16歳で初恋を味わうアレックスがのめり込んでしまうのも分かるし、反面もう少し人生を積んだ18歳のダヴィドもまた若いに違いなく、沢山の人との出会いを楽しみたい気持ちも分かる。

ただこの物語自体が、冒頭の”君の物語ではない”の語りや劇中で先生から気持ちの整理の為に書くように勧められたアレックスの自伝であって、全部はアレックスからの一方的な視点でしかない。
だからダヴィドがアレックスの見ていない場所で何をしていたのかとか、彼の本心だとか、亡くなった父の代わりに家業のお店を背負わなくてはならない気持ちとか、でもどこか刹那的に生きているような感じが詳しく描かれることはない。
本当に色んな人と遊びを楽しみたいし、アレックスが重くて、飽きてしまったのかは分からない。
言い合いをしながら涙したあの場面は、アレックスの激情に流されて涙を流してしまったのかも知れないし、本当は愛しているけれど刹那的に生きる自身と共に居させる事を嫌ったのか、他人と深く関わり続ける事を恐れるのか、ただの勢いだったのか。
これは最後まで誰にも分からない。

彼が亡くなり、少しエキセントリックな彼の母親には責められ、お別れをする事も許されない。そこで、ダヴィドの浮気相手で喧嘩の原因にもなった女性ケイトが手を尽くし死体安置所で再会する事になる。
彼女だったという事にして女装してまで行ったのに、ダヴィドの身体を見て遂に本当に彼が亡くなったのだと実感したのか、号泣する。

外れたカツラと乱れたワンピースのまま家に帰って驚かれるけれど、アレックスの両親は子の性的指向をうっすら感じながら何もいわない。ただ息子の事を案じて協力してくれる良い親だったなあ、戸惑っていたけれども。

そうして彼との約束を果たすために夜中に訪れた墓地で踊る。
様々な想いを乗せたような全力の踊りを、一緒にいったディスコで聴かされたあの曲を聴きながら。
Rod Stewartの名曲、Sailingは正直ずるい、泣いてしまう。
人生のどの場面においても良い歌だけれど、美しいメロディと人生の航海を味わった嗄声と歌詞が、まさにこの映画にもばっちりはまる。

アレックスは旅の途中どころか、16歳。まだまだ始まったばかり。
これからも続くだろう人生のほんのひと夏の恋だけれど、なんと素晴らしいことか。
若いうちは沢山傷つけばいいと思う。いつかそれすら愛おしく思ったり、この映画のようにそれらが人生を作るのだと思う。
よき映画でした。
ふじこ

ふじこ