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人数の町のbutasuのレビュー・感想・評価

人数の町(2020年製作の映画)
2.5
"町"の設定が明らかになっていく前半は結構楽しかった。社会不適合者を集めて管理社会に置き、適度に餌をやりながらその人数をサクラとして活用する。リアリティはないのだが、なるほどこういう世界があったら面白いなと思わせるレベル。美女が女王のように君臨していて、デブを馬鹿にしながらも傍に置いている感じなんかはとても良かった。

ところが、その女王である妹を助けるために姉の石橋静河が"町"に潜入してきたところから急に物語はトーンダウン。めちゃくちゃつまらなくなってしまった。主人公が無気力流され系男子だったのは、展開を説明するために必要なキャラ設定だったのだと思うのだが、何の前振りもなく愛に目覚めてアクティブになったとか言われても。中身が空っぽすぎて感情移入が困難。姉を急に好きになる理由はほんと謎だし、妹の娘と3人で脱出するという展開にもどうも乗れない。出るにしても妹は本当に放置で良いのかね。この辺りから一切妹が出てこなくなることに違和感しかなかった。大体主人公は借金地獄だったのでは?女子供のために窃盗するよりもやるべきことがあるだろうよ。逃亡中に妊娠が発覚する展開には心底ゲンナリした。

姉のような何のしがらみもない人間が外部から気軽に入ってきたら、そりゃ馴染めずに脱出したくなるのは当然。彼女が脱出したいというのはただの感情論であり、妹の気持ちに一切寄り添う気がなく正義感を振りかざすだけの彼女には、正直観ていて鬱陶しさしか感じられない。元々中の皆がそれなりに暮らしを満喫して平和に暮らしているというのもこのイライラに拍車をかける要因だと思う。この展開にするなら、「平和そうに見えるがはたから見たら明らかに異様なコミュニティ」に外部からやってきた人が「違和感を訴え」、「中の人がそのことに気がつく」といった流れにしないと。本作では「変だけど普通に平和なコミュニティ」に外部から人がやってきて「愛に目覚めた」ので脱出する、といった意味不明なものになっている。

そしてつまらなくなってくると、それまで気にならなかったリアリティの無さにいちいち引っかかるようになってしまう。そもそも選挙権などの"人数"として使うには、"町"の規模があまりにも小さく見える。各エリアに別の"町"があるといった説明はあったが、それにしても一つの"町"があまりに小さい。安いCGでも良いから嘘みたいに巨大な地下帝国みたいにするか、もしくは選挙などではなくもっと少人数を活かせる設定にすべきだった。

あとわざわざ全員の戸籍を抹消する方がリスキーなのでは?と思った。親や親戚だっているだろうし、普通に行方不明者のままにしておけば良くないか。それに社会不適合者を集めている割にはあまりに全員が従順で平和。どう考えても中はもっと荒れると思う。一般社会よりも全員が良識あってまともってどういうことなんだ。

くだらない脱出劇にせず、この"町"システムの歪みにもっと切り込んでいけば面白くなったはず。結局何が言いたかったのかちんぷんかんぷんな作品になってしまった。惜しい映画だった。
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