ノラネコの呑んで観るシネマ

人数の町のノラネコの呑んで観るシネマのレビュー・感想・評価

人数の町(2020年製作の映画)
4.2
なかなかユニークな風刺劇。
借金や犯罪で社会に居場所を失った人々が暮らす、奇妙な”町“の住人となった中村倫也の話。
衣食住は保証されるが、住民は名前を奪われ部屋番号がアイデンティティ。
フェイクニュース作りや選挙の不正投票に駆り出され、これが町の原資らしい。
要するに今までの個を捨て、裏から世間を動かすための集団の数合わせの”人数“になるということ。
それは誰でもよくて、逆に特定の「誰か」であってはならない。
ただ漠然と生きてゆくために不自由はないが、一度社会から消えた人間は、永遠に個を取り戻すことは出来ない。
ぶっ飛んだ設定だが、カルト宗教風の生活様式を含め「こんな町、実際にありそう」と感じられる妙なリアリティがある。
いや、ずっとは嫌だけど、結構楽しそうだし私も一週間くらいなら入ってみたいわ。
もっとも、後半石橋静河が来てからのドラマはちょっと弱い。
そもそも中村倫也が彼女に恋するプロセスがないので、展開にやや唐突感。
ラストも途中で予想がついたが、あの結論になるまでもうひと葛藤あっても良かったような。
しかし日本では珍しい、統計とシニカルなユーモアに裏打ちされたディストピアものの佳作だ。