天豆てんまめ

スパイの妻の天豆てんまめのレビュー・感想・評価

スパイの妻(2020年製作の映画)
4.0
現代のマエストロ 黒沢清が奏でる極上の戦時ラブサスペンス。

1930年代後半からの日米開戦がひたひたと迫る緊張感とオペラティックな雰囲気が好きだ。海外で映像美が好きな監督はクリストファー・ノーランとデヴィッド・フィンチャーだが、日本では黒沢清が好きだ。硬質な映像美はフィンチャーと相通ずるものがあると思う。

そして、30代No.1演技派コンビの蒼井優と高橋一生が存分に魅せてくれる。蒼井優が断トツ女優なのは周知の事実だが、実は高橋一生の演技も素晴らしい。キザでスマートな野心家経営者がぴったり。斎藤工だと甘った過ぎる。高橋一生もまた先程映像美で表現した「硬質な」芝居がハマる。私が言葉を重ねるよりも、黒沢監督と蒼井優のインタビューがわかりやすい。

黒沢清「蒼井さんが驚異的に芝居がうまいということは知っていました。蒼井さんの相手役は誰がよいか、を考えていたときに、「三十代後半の男優で、日本映画界で一番うまいのは誰か?」と聞くと、みな高橋一生さんと答える。実際、この優作という人物の底知れない感じ、根源的妖しさは、全て高橋さんの計算によるもので、一方で聡子の動揺を優しく包み込む時の誠実さも迫真のものでした」

蒼井優「私は、一生さんは“芝居の軌道が美しい方”だとずっと思っていて、一生さんは常にブレないです。いちばん美しい線を描いていて、まるで宮大工みたいに本当に器用なお芝居をされる方だと思っています」

そんなこの役柄にもピタリはまった高橋一生と、彼の好演も全て脳裏から吹き飛ばしてしまうような、まるでマグマのように激情が迸るような蒼井優の変幻自在・天衣無縫な天才芝居に唸らされた映画だった。

愛か、嫉妬か、正義か、野心か、裏切りか、嘘か、真実か、どこに転ぶかは見て頂くとして、純粋で濃厚なラブストーリー。

マエストロ、お見事!