Kuuta

スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバースのKuutaのネタバレレビュー・内容・結末

4.4

このレビューはネタバレを含みます

字幕と吹き替えで1回ずつ鑑賞。

映像で物語を描く。実写/アニメ問わずここまで突き詰めた作品はなかなかない。アニメならではの娯楽でありアート。「かぐや姫の物語」へのアメリカからの回答という見方も出来るかもしれない。そんなレベルの傑作だった。

・スポットとミゲルオハラ、2人の敵がいて、スポットが後半消えてしまう構成の難、ラスト30分のクリフハンガーの連続、続編へのネタ振り感は否めないし、ミゲルのマルチバース論はガバガバな気がしてならない。話に不満が出るのは分からないでもないが、全体の構成が分かってから見た2度目は、グウェンの話として綺麗に完結していることが理解でき、違和感は消えた。

「誰もがスパイダーマンになれる」ことを示した前作に対し、今作は「誰もが自分の生き方を肯定できる」と謳う。マイルスの悩みの一歩先、スパイダーマンであろうとするマイルスの裏返しの物語を、今作のグウェンは「並行して」進めている。この2作が統合された先、3作目でマイルスの新たな物語が完成するのだろう。

前作ラストで、マスク姿のマイルスが警官の父に抱き付いた構図が、今作冒頭では私服姿のグウェンと父の場面で反復される。マイルス親子の公的な姿での和解に対し、私的空間でのぎこちない抱擁が、マイルスの裏返しの物語の口火を切る。スプリットスクリーン、漫画のコマ割りを飛び越えたグウェンと父の世界の色は少しだけ溶け合う。しかし、グウェンは自分の正体を明かしておらず(向き合いたくない父は黙秘権を行使するよう言う)、その色はすぐに分離する。

ラストで再び抱擁をするとき、グウェンはスパイダーウーマンの姿をしつつ、マスクを外している。呼応するように父は警官のバッジを外す。前作のマイルス、今作冒頭のグウェンが出来なかった「表と裏を同時に受け入れてもらう」状況が、絵だけで示されている。淡く滲み続けてきたグウェンの世界は、柔らかな白に落ち着く(グウェンのLGBTQへの仄めかしも効いてくる)。背景がほとんど変わらなかった前作から何段階も描き込みが増し、背景の変化を含めてマルチバースの漫画になっている。

日本と逆のアメコミの読む方向=左から右への移動、右側に目指すゴールを置く構図が軸となる。今作のポスターが象徴的だが、カノンの説明からの逃亡や、ムンバッタンのクライマックスなど、マイルスが物語に逆行する時、左方向へのアクションを挟みつつ、漫画である事を逸脱した無重力3次元アクションで暴れ、自らを抑圧するもの(前作であれば恐怖、今作であれば物語)を振り払うようにLeap of Faithの落下を見せる。

・スポットとマイルスの対比関係。マイルスの自画像は空洞で、ストーリーも白紙で、透明になることが得意技。何にでもなれる可能性は、プラウラーになる道にも、スポットの黒い穴のように虚無に陥る道にも開けている。その中で彼がスパイダーマンであり、マイルスである事をいかに証明するか。

→ミゲルは、マイルスが生まれるべきではなかったと言う。反出生主義と、エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンスでも描かれた「無限に可能性があるなら、今の自分が自分である意味もない虚無感」。黒人主人公はスパイダーマンではないという今シリーズへの批判を反映している。

→それに対して「私のホームに帰るのだ」と突き返す展開もエブエブと一緒。ところが、家に帰ろうと血縁を辿った結果、スパイダーマンという概念がなく、スパイダーマンの血がアイデンティティにならない世界に飛ぶ。今作で彼がプエルトリカンと黒人の子供である点が強調されるように、二つの世界の間に立つ混血のマイルスが、自分の存在意義を問われるシチュエーションを繰り返している。ケーキを2つ買う彼は、二面性を両立できる道を探している。

・ミゲルが世界を崩壊させた理由は前作のキングピンと同じ。グウェンの父とミゲルには、グウェンを見る主観ショットが入っている。自分の世界を押し付ける父として3人は重ねられている。マイルスの父も彼らと同じ轍を踏むのか、子供という異常分子を受け入れ、未来を変えたピーターBパーカーのような道に進むのか、展開は保留されている(私が見落とした可能性もあるが、マイルス父の主観ショットは一回もなかったはず)。

・マイルスの道標になる周囲の大人たち。実は2回とも泣いたのがマイルス母が息子を送り出す場面。あれがマイルスの「家に帰る」思いの原点になる。また、運命の象徴として、ATフィールドみたいな壁が出てきて、Detroit: Become Humanみたいにマイルスはそれを打ち破るが、最初に壁を壊し、助言を与えるのがホービーなのもいい。壁=コマ割りと考えれば、従来の漫画の世界を破壊する宣言でもある(グウェンもフィギュアの箱を開封する)。

・プラウラーの叫びに始まり、グウェンのドラム、マイルスのテーマ、スパイダーマンのテーマを奏でるギターが入り混じるラストのAcross the Spider-verse、サントラで何度も聴いている。同じ曲はドラムが強調される形でオープニングでも流れているのだが、要素全部乗せで激しさを増した曲調が、バンドの新たなスタートを印象付ける。

・存分にAcrossした今作に続く最終作はBeyond。レゴムービーのコンビだし、現実世界にキャラが飛び出すネタは繰り返さないとは思うが…。収拾の付け方が全然予想できない。
Kuuta

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