半兵衛

王将の半兵衛のレビュー・感想・評価

王将(1948年製作の映画)
4.0
将棋馬鹿の一代記がベタに描かれているけれど、阪東妻三郎の熱演(ちょっとくどいときもあるけれど)と伊藤大輔監督の練達した演出が映画に格調と風情を与えて圧倒される。

伊藤大輔監督は戯曲だった原作を、二つの空間をカットバックした展開や空間を生かした演出によって映画という世界に仕立てているのが見事。それと機関車や電車、船といった大型の動く物が画面を横切ることで映像にダイナミックさと奥行きをもたらす。特に主人公の坂田三吉が住む長屋の下を走る機関車、姿はないのに画面を横切る煙と音だけで存在しているように錯覚させるすばらしさ(実際はセットの下で当時助監督だった加藤泰と美術助手だった西岡善信がタイミング良く動きながら煙を出していたらしい)。あと奥さんのピンチを知った阪妻が家に走りながら戻るときの阪妻目線で走っていることを表現するスピーディーな移動撮影は、往年の「イドウダイスキ」と揶揄されたテクニックを彷彿とさせる。

そして随所に登場する目に見えないはずの風が観客に見えて空間と登場人物の運命を感じさせる奇跡。微妙な風の動きで人の死を感じさせるラストの演出も最高。

三島雅夫、小杉勇、斎藤達雄といった名脇役たちの演技によるサポートも見事。
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