持て余す

エノーラ・ホームズの事件簿の持て余すのネタバレレビュー・内容・結末

3.6

このレビューはネタバレを含みます

原典とは少し距離のある二次創作。舞台が現在になっているカンバーバッチ版や時代設定に加えて性別も女性で日本が舞台になっている竹内結子版(続編がもうあり得ないのが残念)よりも元のホームズ譚との距離は遠い。

シャーロックやマイクロフトが登場するもののこの物語はほぼオリジナル。エノーラの存在からしてはっきり「いない」とも言えないけど、原典で触れられているシャーロックの兄弟姉妹は兄だけだから、金田一少年レベルで原典とは関係が薄い。

で、この(ネットフリックス映画の)エノーラなのだけど、極めて現代的なポリティカル・コレクトネスに則って造形されていて、そういう「縛り」がありありと判ってしまうのは、創作物として少し残念。ジュニア向け小説が原作のようだけど、そちらはどんな感じなのだろう。

また、シャーロックが妹の独立思考を陰日向に暖かく見守る姿には疑問。シャーロック・ホームズという人物は好調時以外はまともに社会生活を送るのも困難なダメ人間(だと思う)なので、あんなふうにそつなく妹をバックアップできるとはとても思えない。こういうホームズ像もありはありだけど、魅力は薄くなる。

なにかで読んだけど、ワトソンがホームズの奇行を大袈裟に書いているという解釈もあるようで、それを採用すればまだしもしっくりくるようにも思えるけど、そうするとシャーロックが少しばかりエノーラに都合のいい機械のように感じられてモヤっとする。

だから、この物語はホームズ譚のパスティーシュというよりは、ホームズ世界のキャラクターで少女向けの冒険活劇が作られたとする方が良さそう。アニメの犬ホームズぐらいの砕けた感じ。

そうした視線で見れば楽しい映画。ガール・ミーツ・ボーイで、逃亡劇で、成長譚で、母の秘密だったりで良い素材ばかり。全体のテンポも悪くない。20世紀初頭の世界に現代の感覚を持たせ溌剌としたエノーラは、世界と視聴者の橋渡しにもなる。

ただ、全体に健康的過ぎるかなーと思っていたところへ、真犯人の発散する毒があるので(物語の中のイギリスの老婆って怖い)そうしたところは良かったけれど、それでもまだ少し食い足りない感じは残った。

続編もアナウンスされているので、そちらに期待。
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