浦切三語

ラース・フォン・トリアーの5つの挑戦の浦切三語のレビュー・感想・評価

3.7
トリアーはデンマーク映画学校の学生時代の頃からすでにスター学生扱いされていたらしいが、そのときの指導教官のひとりが本作に本人役として登場しているヨルゲン・レス。トリアーは在学中に敬愛するレスの気を引こうとあの手この手を使ったらしいが相手にされなかったようで、その歪んだ愛憎が炸裂している一作。敬愛するレスに無理難題にも思える条件下で映画制作を要求するトリアーの姿にはドグマ宣言以降の己の「映画に向き合う姿勢」にレスを取り込もうとする野心的な試みもあるんだろう。しかしそれ以上に感じたのは前述したレスへの愛憎の強さ。レスのクリエイターとしての仮面を剥いで権威主義的立場を崩すために駄作を撮らせようと無茶苦茶な要求(12fpsで撮って、だの、世界で一番悲惨な土地で撮って、だの)を突きつけるその裏側で「僕の敬愛する映画監督がこんなにダメな監督なわけがない」という、憎しみと相反する愛情の強さをひしひしと感じる。例えるならアプリ版「ウマ娘」におけるナリブとローレルの関係性に似てる。「僕以外の奴がレスの映画にあーだこーだ口出しするのは許さない」という暗黙のメッセージ。なんだか可愛い映画だったな。

ちなみにトリアーはこの作品中で「アニメーションは大嫌い」と発言してますが、まあ納得ですな。ドグマ宣言するような人だもん。「制限された撮影状況」の下で映画の正体に迫ろうとしている人が、実写撮影よりも画面構成がコントーラブルなアニメーションを嫌うのは当然の理屈な訳ですよ。
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