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シュシュシュの娘のいでのレビュー・感想・評価

シュシュシュの娘(2021年製作の映画)
2.0
この映画を撮るに至った経緯や心意気はとてもいいと思う。ただ作品自体は今まで観た入江監督作の中でもダントツで残念だった。

主人公が○○(ネタバレ禁止らしいので)になるのは構わないけど、全体的に一体何を見せられているのだろうと思う事が何回もあった。

入江監督が政権与党が嫌いなのはよくわかったが、その表現があまりにもひどい。移民排除条例(現状ではあまりに現実味がないが)に反対している老人の孫が主人公なのだけど、少なくとも映画の中で反対しているのはおじいちゃんのほかには主人公の親の友達と移民を雇っている人の2人だけ。対して賛成派は市長をはじめ大勢。勧善懲悪の話にしたいからだろうが、その状況でそもそも賛成派が文書を改ざんしたり反対派を法に触れるレベルで攻撃したりする必要がない。

反対派の理由も関東大震災のエピソードだけでは、この条例とは全く違う話だし説得力がなさすぎる。そして移民問題の是非は別にしてなによりその決着のつけ方があまりにもひどい。

自分の私腹を肥やす悪役を成敗する昔の人気時代劇をイメージしたのかもしれないけど、少なくとも市長たちは正しいかは別にして、今の制度を使って本人たちの正義を実現しようとしているだけ。

移民を排除したい理由は何なのか、どうすれば問題を解決し共存できるのかといった事を全く考えず、主人公のとった行動はとても容認できるものじゃないし、権威主義国家の手口そのものでとても共感できない。

せめて悪役が不正をして当選した市長で、無理矢理推し進める移民政策に反対するおじいちゃんの孫ならまだマシだったはず。不正して当選でも政権与党批判できるし。

サイタマノラッパーは主人公の苦しみが自分の世界と地続きだった。境遇は違っても共感できるからこそ最後のラップにカタルシスがあった。でもこの映画は結局主人公が自分の好き勝手やっただけで、この後の光が見えない。少なくとも不正を公にした方がカタルシスもあったはず。まあそもそも入江監督は歪なものを目指してたみたいだし、共感やカタルシスなんか求めてないのかもしれないけれど。

ラストの展開も先輩の中途半端な行動も両親の謎も入江監督ならもっといろいろできたんじゃないかと思う。映画的表現も拙速だし、笑いもテレビ的、役者さんの使い方ももったいない気がするし、これが入江監督がやりたかった事なんだとしたら本当に残念。悪い意味で自主映画だなと思った。
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