MasaichiYaguchi

海辺の彼女たちのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

海辺の彼女たち(2020年製作の映画)
4.0
「外国人技能実習制度」で来日している人々が低賃金、重労働の仕事に就き、しかも残業代の未払いやパスポートの取り上げという人権侵害を受け、ブラック企業の餌食になっているということはニュース等で知っていたが、ベトナムから来た3人の女性たち、フォン、アン、ニューに寄り添うように、その“実態”をドキュメンタリータッチで映し出した本作からは、もう一つの日本を見ているようで愕然としてしまう。
映画は、或る夜に彼女たち3人が過酷な労働を強いる職場から脱走を図るところから幕を開ける。
彼女たちが向かったのはブローカーに仲介してもらった新たな職場がある雪深い港町。
ここでも当初聞いていた内容とは違う仕事が待っている。
近年、日本に在留するベトナム人は増加の一途を辿っていて、その多くを占めるのが留学生と技能実習生。
外国人技能実習制度は2016年に制定され2017年から施行された新しい制度で、その理念として「技能実習生が労働力の需要の調整の手段として使われてはならない」と明確に定められている。
ところが現実は理念と実態が大きく乖離していて、少子高齢化社会の一途を辿る日本では労働力不足が問題となっていて、特に若者が嫌がる「3K」職場が深刻な状況になっている。
つまり、技能実習生は開発途上国の経済発展に貢献する人作りという「建前」と、不足する現場労働力の補填という「現実」の矛盾を抱えながら、その数を著しく増やし続けている。
彼ら彼女らは平均して100万円以上も借金して来日したものの、時給に換算すると300~400円程度しか支払われていないケースもある。
低賃金に加え、劣悪な労働環境、本作の場合はなかったが、女性の場合は陰湿なセクハラ被害も多数あるらしい。
本作での彼女らは故国に残してきた家族の為、極寒の中、港町での仕事をこなしていく。
ところが3人のうちフォンに思わぬ“事態”が発生し、彼女はこの先の「選択」を迫られていく。
振り返ると、本作の彼女らはずっと「選択」の連続だ。
先ず来日したこと、最初の職場に就いたこと、そこから脱走したこと、そして寒い港町で仕事を選んだこと、そして極めつけがフォンのラストでの「選択」。
だが、よく考えると彼女らには「選択」の余地は無く、必然としてそれを選らばざるを得ない。
憲法第22条では「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業の自由を有する」とあり、そして第25条では「すべての国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」とある。
いくら来日している外国人だからといって、その憲法の条文を無視して良い筈はないと思う。