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水俣曼荼羅のatomのレビュー・感想・評価

水俣曼荼羅(2020年製作の映画)
5.0
猥雑なエネルギーに満ちた、すごく面白い映画だった。

軽やかにドキドキさせられる太鼓のリズムに金管楽器のちょっと中東風?だかジプシー風?だかみたいな感じのメロディと演奏がかぶさって、すでにすっかり嬉しくなって、映画の世界に初めっから引き込まれてしまった。

(↓こんな感じ🎶)
https://youtu.be/46vobmdLFb4

ちょっと悲壮な覚悟で望んだ3部構成6時間半は、意外にも楽しい驚きがいっぱいあって、飽きさせられなかった。観ながら、この国の住民として生きていることの絶望的な気分をこれでもかと味わわされると共に、明るいふてぶてしい気分も生まれてくるような心地がした。

水俣病患者のひとりである女性の恋愛遍歴を再現させよう、というくだりでは、彼女の心を寄ってたかって裸にするようで、いくらなんでも監督悪趣味すぎるのでは⁈と眉間にシワを寄せてしまったのだが、恋の相手の男性が3人も4人も登場するにつれ、それが揃いも揃ってなんだか味わい深いユーモアのある男たちで、彼らとのやり取りのうちから、彼女の、いじらしいだけではない、誇り高く豊かな精神が立ち表れてきて、気がつくと私も他の観客も、まんまと、笑わされたり、泣かされたりしたのだった。

前の天皇夫妻が水俣を訪れたときに、患者代表として彼らと言葉を交わした男性が、その後、それ以前の度々の登場場面とは別人のような顔つきになって「天皇陛下はじっと自分の目をみつめてくださり、自分の家の遠い先祖とのつながりを感じた」などいうようなことを喋ってビックリしたが興味深いと思った。

わたしのアイドルのひとりである石牟礼道子もちょっとだけ出てきて嬉しかった。パーキンソン病で全身揺れながらも艶のある声でお話された。揺れながら自ら急須にお湯を注いで、優雅にお茶を召しあがりながら。そこでの渡辺京二(長年にわたり石牟礼道子の仕事の手伝いや食事の世話をしているという)(わたしにとって今のところ謎の関係)との、可笑しくてチャーミングなちょっとしたやりとりも、しっかり撮影してくれていて嬉しかった。
わたしのお気に入り本コーナーには『食べごしらえ おままごと』という、食にまつわる素敵なエッセイの文庫本がおわします。

上映後に原一男監督が現れる予定だったのだが、道路の渋滞で動けないとかで、お目にかかれなかったことは残念だった。
冒頭の音楽の演奏のことを聞きたい気がしたんだけどな。
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