ノラネコの呑んで観るシネマ

映画 太陽の子のノラネコの呑んで観るシネマのレビュー・感想・評価

映画 太陽の子(2021年製作の映画)
4.5
劇場編集版。
太平洋戦争中、日本の核開発の一翼を担った京大物理学研究室の物語。
去年放送されたNHKのドラマ版とは、だいぶ印象が異なる。
冒頭とラストにあった現在の広島のシーンはカットされ、柳楽優弥演じる主人公の研究生が、ウランを求めて行脚するところから始まる。
このことからも分かる様に、劇場版はより科学者としての主人公の心情に寄り添った視点から描かれている。
自分たちが作っているものが、未来の世界に何をもたらすのかを頭では理解しながらも、核分裂の光が美しい、もっと見たいと語る。
明日が確実にあるものとは限らない、戦争の時代。
皆生き延びるために精一杯の中、主人公だけは別の世界を見ている。
この瞳の奥に情念の狂気を宿した主人公は、「風立ちぬ」の堀越二郎を彷彿とさせる。
だだし、柳楽優弥が追い求めたものの闇は、あまりにも深すぎた。
ドラマ版だと主人公の葛藤は、あえて途中で終わらせている。
対してこちらでは、ある人物の“声”と対話させながら、主人公の中でジレンマを抱きながらも、一応の結論を導き出す。
複雑に矛盾した柳楽優弥と、どこまでも真っ直ぐな三浦春馬、地に足をつけた有村架純。
三者三様の青春の情景が、痛ましくも瑞々しい。
観応えある秀作である。
ブログ記事:
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