一人旅

サン・セバスチャンへ、ようこその一人旅のレビュー・感想・評価

4.0
ウディ・アレン監督作。

生粋のニューヨーカー:ウディ・アレンが2020年に撮り上げた長編第49作目で、スペインを舞台に妻の浮気を疑った老齢の男の恋模様を描いた人生喜劇です。

スペイン北部のサン・セバスチャンで開催される映画祭に参加するため妻と共にNYから同地を訪れた元大学教授で現在は売れない小説家の老齢男:モート・リフキンが、映画のプレス担当を務めている妻と新進気鋭の著名な映画監督の浮気を疑ったことから、心ここにあらずの不安な心理状態に陥る中、知人の紹介で知り合った魅力的な女医に心惹かれていき…という“夫婦+恋愛喜劇”で、異国の地スペインで夫婦関係の危機と新たな恋の芽生えを迎えた老年の男の行く末をウディ・アレン流の軽妙な語りで映し出しています。

実在するサン・セバスチャン映画祭を舞台にしているだけあって、ウディ・アレンの映画愛が劇中をユニークに彩っています。気づけただけでも、オーソン・ウェルズの『市民ケーン』、フェリーニの『8 1/2』、ゴダールの『勝手にしやがれ』、トリュフォーの『突然炎のごとく』、クロード・ルルーシュの『男と女』、ベルイマンの『野いちご』『第七の封印』、ルイス・ブニュエルの『皆殺しの天使』、(映画監督が女の脚をまじまじ見つめる場面が『恋愛日記』か『クレールの膝』のどちらの引用か判断に迷う…)と往年の欧州映画を中心にモノクロームの映像による引用が随所に盛り込まれています。それも、さりげないオマージュというレベルではなくて、明白にそれと分かる“改変された再現映像”で数々の名作映画が主人公の悪夢として印象的に映し出されていますし、終盤にやっと登場する『第七の封印』の死神の“変に優しい”原作改変キャラ(演じるはクリストフ・ヴァルツ)も癖になる愉しさです。

映画、特に往年のヨーロッパ映画に対するウディ・アレン監督の趣味と偏愛を大々的に採り入れながら、停滞した夫婦関係の終止符が近づいた冴えないインテリ男の高望みな恋路と人生の再出発を、イタリアの名カメラマン:ヴィットリオ・ストラーロによるスペイン北部の煌びやかな夏の情景と名作映画を再現したモノクロ悪夢世界の対比的な映像美の中に描いた人生喜劇で、主演のウォーレス・ショーンが妻の浮気と魅力的な女性との出逢いという二つの出来事に遭遇する男を前のめりに妙演しています。
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