somaddesign

シャドウ・イン・クラウドのsomaddesignのレビュー・感想・評価

シャドウ・イン・クラウド(2020年製作の映画)
5.0
指が見たことない方向に曲がるシーンで観客も悶絶

:::::::::::

1943年8月。第二次世界大戦の最中、ニュージーランドからサモアへ最高機密を運ぶ密命を受けた連合国空軍の女性大尉モード・ギャレットは、B-17爆撃機フールズ・エランド号に乗って空へ飛び立つ。男性乗組員たちの心無いからかいにあいながらも、ひたむきに任務を遂行しようと奮闘する。

:::::::::::

見る人を選ぶだろうけど、自分にはメチャメチャ面白かった٩( ᐛ )و
圧倒的テレ東感。超豪華午後ロー映画っぽくて大好き!
長さも84分とサクッと見られて、ポンポさんも褒めてくれそう。

下敷きになってるのはダン・オバノンの「グレムリン(B-17)」。女性がたった一人航空機の中で正体不明のモンスターと戦う設定は「エイリアン」の元ネタにもなったことで有名なやつ。

B-17の下部旋回銃座が舞台の映画ってだけでアガるし名作も多い。「メンフィス・ベル」ではショーン・アスティンが乗ってたし、「世にも不思議なアメージングストーリー」の一編『最後のミッション』(監督スティーブン・スピルバーグ)、飛行機で不思議なモンスターに遭遇するものの誰にも信じて貰えない設定は「トワイライトゾーン」の「2万フィートの戦慄」っぽい。閉鎖空間の会話劇といえばライアン・レイノルズの「リミット」とコリン・ファースの「フォン・ブース」を連想させる。

今作は戦争映画とモンスターパニック映画でもあるけど、大きく社会風刺映画へと舵切りしてるのもいい。モードが戦ってる相手が直接的にはモンスターや日本軍であるものの、それ以前にガラスの天井と戦う物語だった。

序盤の密室会話劇が抑圧された状況の暗喩になってるのもそうだし、そもそも戦力(≒人間)扱いされてない性差別の構図。
乗組員同士の卑猥な会話が、これまで互いの深い絆を示すやりとりとして描かれてきたのを逆手にとって、今作だとただ不快で性差別的な会話としてる。ホモソな身内ノリな会話といえばそうだけど、槍玉に上げられる女性側の視点で聞くとこんなにもバカっぽく・不快な言葉なのか。

今作でのグレムリンは謎の怪物って意味以上に、男性社会で生きる女性にとってのガラスの天井を具現化した存在でもある。てことはグレムリンの尻尾が暗喩するのって……いたたた。
劇中のグレムリンが悪魔ってより動物に近くておもろい。ぶん殴られて「ウッ」てなる顔とか、地上戦でモードにボッコボコにされる様とか一周してちょっと可愛い。(モードのオーバーキルっぷりも最高でした( ´∀`)


演出面だと、魔法のように暗闇から現れるフールズ・エランド号。ハンドラーとのやりとり含めて幻想的かつ不吉。振り返ってみれば、話の通じない男社会に乗り込む不安と不穏を暗示する物語の入り口として素敵。
モードの決意と共に世界が文字通り逆転しちゃうのも楽しい。実際にはあっちゅーまに吹き飛ばされちゃうようなことでも、未来少年コナンばりに飛んでる飛行機に指でしがみつく様がカッコイイ。突然の「限界なんてないんだから!」はセリフとして唐突すぎた。


余談)
モード・ギャレットを演じたクロエ・グレース・モレッツ。「キック・アス」から早十数年。すっかり大人の女性へと成長を遂げ、強さと弱さを内包したリアルな女性像を熱演。前半部のイギリス英語も完璧で、発話の違いが後半以降の関係性の変化の伏線にもなってて色々巧妙。
クライマックスで、破れかけの袖を引きちぎる姿がカッコいいの何の。体中から殺気と決意がみなぎるシーンで、グレムリンが可愛そうになる勢いのフルボッコが面白かった。
プライベートでは2021年にコロナ禍で実父を亡くす不幸に見舞われたものの、その悲しみを乗り越えるために家族の結束が強まったとか。毀誉褒貶の激しい業界で、どうにかこの先も幸せなキャリアが続いていって欲しい。

追記)
当初脚本を担当してたマックス・ランディス(ジョン・ランディスのご子息。「クロニクル」「エージェント・ウルトラ」の脚本家としてお馴染み)だったが、過去の性加害や精神的苦痛を伴う心理操作を告発されて降板。ロザンヌ・リャン監督自ら大幅なリライトを行ったものの、全米脚本家組合の規定に則りエンドロールにクレジットされてしまうハメに。結果的にクレジットは残ったけど、映画全体を通じてマックス・ランディスをはじめとした性差別に対向する内容にググッと寄って、単なるモンスターパニック映画以上の出来になったのかも。


24本目
somaddesign

somaddesign