春とヒコーキ土岡哲朗

サマーフィルムにのっての春とヒコーキ土岡哲朗のネタバレレビュー・内容・結末

サマーフィルムにのって(2020年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

約束さえあれば、自分の情熱に意味があると信じられる。


「好き」を貫く青春。
ぱっと見地味でも、自分の好きを貫き、時代劇映画を完成に持っていくハダシたち。落ちこぼれと変人が集まってチームになるみんな大好きパターン。
ダディボーイ、インパクトも強くて健気でナイスキャラ。かなり時代劇映えする顔の俳優さんだが、似合わない制服姿で浮かせてギャグキャラにしておいて、時代劇の恰好になったらさらっと様になるのはにくい。

時代劇を監督するハダシ、作りたいものを作るべきと背中を押してくれる女友達、タイムパラドックスのリスクよりもハダシが監督になることを選んだ凛太郎。みんなの飛び込んじゃう姿に、「やってしまうのが人間気持ちいいんだ」と感じる。

しかし、凛太郎がいた未来では映画はもう作られていないと言う。
自分が一生懸命やっても何も残らないというのは頑張る気概がなくなる絶望的な不安だ。ハダシも気力を失いかけるが、凛太郎は自分が未来に帰って映画をまた作ると誓い、ハダシの創造力や行動が無駄にはならないことを約束する。結局、自分のやったことに意味があるか、何か残るか、というのは不確定要素。それを信じてやり続けるためには必要なのは、必ずつなぐという約束、意思。


違うものを否定しないかりんちゃん。

「軽薄な映画を作ってるセンスなしリア充」な役どころで登場するが、ハダシを仲間はずれにしたりせず、みんなと楽しいノリができるいい子ではある。かりんちゃんが自分の映画に時代劇要素を取り込むからとハダシを誘ったのも、ハダシからしたらリア充の厚かましさだが、後から思えばかりんちゃんの「ハダシも楽しめるように」という優しい配慮。ハダシが映画部とは別で撮影を始めてからも、それを裏切り者とせずにお互いがんばろうねと言っている。別に他人を否定しようとはしていない。

お風呂場で喧嘩を売られて「ごめん、眼中になかった」と言い返すところだけ彼女の悪い部分が出るが、その後は「うちら借りは返す系だから!」とピンチを助ける。喧嘩を売られてむかついて言い返しはしたけど、それは自分のやってることにプライドがあるから敵意に対して敵意で反応した、プライドの証拠だったわけだ。

編集作業はハダシ同様かりんも1人残ってやっている。1人の地道な作業に、思い出作りで馴れ合いでやっているなんて批判はできない。実際、かりんたちが作った映画も人を良い気持ちにさせている。リア充に劣等感を持ってる側が勝手に「向こうのやってることはくだらない」と考えがちな姿勢も見直させてくれる映画。

ハダシの時代劇撮影に協力するブルーハワイが実は青春恋愛ものが好きなのも、ジャンルに貴賎なしといった感じで良かった。そして、かりんちゃんの撮った映画は『大好きってしか、言えねーじゃん』という一見虫唾が走るタイトルで、「好き」を連呼している映画だが、ブルーハワイが亡き恋人役で参加して「好きだよ」と言うシーンは、目の前からなくなっても好きなものを好きだった事実は消えないと示している。安売りしてきた「好き」をびしっと決めていてかっこいい。