耶馬英彦

激怒の耶馬英彦のレビュー・感想・評価

激怒(2022年製作の映画)
3.0
 諏訪湖に行ってきた。広さはあるが、最深部の水深が5メートルもない水溜りみたいな湖である。天竜川に流出していて、天竜川沿いには伊那や飯田があり、中央本線側には釜無川があって、富士川となる。新宿から中央本線の下りに乗ると、上諏訪駅の4つ手前に富士見駅がある。
 全国に富士見町という地名はたくさんあるが、地方自治体としての富士見町は長野県の富士見町(ふじみまち)だけだ。本作品の舞台は富士見町(ふじみちょう)だから、一応は架空の町ということになる。

 長野県富士見町は2005年3月24日に「富士見町安全のまちづくり条例」を制定している。その中には注目すべき条文がある。
・町は、社会に危険を及ぼす集団等の活動の抑止に努める
・町は、青少年の健全育成を図るため、青少年を取り巻く環境の整備その他青少年の健全育成を阻害するおそれのある行為を防止する施策を講じる
・生活安全指導員は、犯罪の発生を未然に防止するための街頭啓発活動を行うほか、生活安全のために必要な活動を行う

 本作品と長野県富士見町は無関係だが、上記の条例を極端に解釈して実力行使をすることを想像すれば、誰でも本作品のような自警団に思い至る。
 当然かに思えるような条例でも、その背後に家父長制度的な全体主義があると、人権を平気で蹂躙する方向に走りかねない。戦争は平和の顔をしてやってくる。詐欺師は親切心を装って声をかけるのだ。
 登場人物の終盤の台詞に「どこへ行っても変わらない、日本全国同じだ」という発言があるが、町内会長を顎で使う影の人物が登場するといった、全国的に自警団暴力が広がっていると思わせるようなシーンがないから、現実味に乏しい。

 タイトルの「激怒」は、怒り狂って暴力を振るうという、誰でも思いつく「激怒」だったので、ちょっとがっかりした。自警団の暴力に対して暴力で対抗すれば、暴力の連鎖が起きるだけで、非暴力の世の中にはならない。自警団の目を盗んで草の根運動を展開するストーリーでもよかった気がする。静かに地道にレジスタンスを組織していく「激怒」なら、ある種の意外性で受け入れられたと思う。
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